ジハード (小説)

ジハード

定金伸治によるライトノベル『ジハード』は、東西の文化が交錯する十字軍時代を舞台に、異色の主人公ヴァレリーの活躍を描いた作品です。当初、山根和俊がイラストを担当し、後に芝美奈子に引き継がれました。ジャンプ小説・ノンフィクション大賞の第一回入選作として、ジャンプ ジェイ ブックスから刊行され、後に漫画化もされています。

あらすじ

物語は、西欧人でありながらイスラム側に転じたヴァレリーを中心に展開されます。彼は、エルシードを補佐し、リチャード獅子心王の攻勢を幾度となく食い止めるなど、類まれなる智謀を発揮します。しかし、その裏には、苦悩や葛藤が隠されており、人間としての弱さも描かれています。

登場人物

ヴァレリー（ヴァレリウス・アンティアス、アル＝アーディル・サイフッディーン）

本作の主人公。西欧人でありながらイスラムに転向し、エルシードを支える智将。普段はとぼけた一面を見せるが、その実、深慮遠謀を巡らせる策略家。「常敗の智将」とも呼ばれ、不利な状況を覆す奇策を得意とする。物語が進むにつれて、人間としての苦悩が浮き彫りになり、その姿はまるで原罪を背負うキリストのようです。

エルシード

サラディンの義妹にして、先帝ヌールッディーンの遺児。果断で勇敢な性格で、ヴァレリーを叱咤激励しながらも、その才能を高く評価しています。ヴァレリーとは対照的な性格ですが、互いに信頼し、支え合う関係を築いていきます。

ラスカリス

ヴァレリーの副官であり親友。当初はヴァレリーを監視する役目を負っていましたが、彼の真の姿を知り、心酔するようになります。ヴァレリーの戦術を実行に移す有能な人物でしたが、物語の途中で悲劇的な死を遂げ、ヴァレリーに大きな影響を与えます。

ルイセ

驚異的な脚力を持つ少女。西欧人ながらイスラムに味方し、ヴァレリーを助けます。伝令や偵察で活躍し、ラスカリスに密かに想いを寄せていましたが、彼の死後、その想いは報われることなく、悲しい結末を迎えます。

アル＝カーミル

元はヴァレリーの命を狙う暗殺者でしたが、ヴァレリーやシャラザードとの交流を通して人間性を取り戻し、彼らを守ることを誓います。物語が進むにつれて、ヴァレリーの息子として迎え入れられ、その跡を継ぐことが示唆されます。

シャラザード

ヴァレリーの養女であり、エルシードの母代わり。サラディンの実子であり、ヴァレリーの監視役として送り込まれました。慈愛に満ちた女性ですが、内に狂気を秘めており、そのギャップに苦悩します。敵味方問わず傷病兵を看護する姿は、「聖母マリア」の再来とも呼ばれます。

サラディン

アイユーブ朝の創始者であり、寛容な君主として知られています。作中では「聖将」と称され、現実を見据えながらも理想を追求する深みのある人物として描かれています。ヴァレリーの才能を認め、キリスト教徒にも公平に接するなど、その人格は多くの人々に影響を与えます。

リチャード

イングランド王リチャード1世、別名「獅子心王」。第三回十字軍を率いる英雄王であり、ヴァレリーの最大の敵として立ちはだかります。剛直で広い心を持つ人物として描かれ、ヴァレリーの才能を認めながらも、宿命的な対決を繰り広げます。

多彩なメディア展開

『ジハード』は、小説だけでなく、漫画やCDブックなど、様々なメディアで展開されました。山根和俊による漫画版や、豪華声優陣によるCDブックは、原作とは異なる魅力を放ち、多くのファンを魅了しました。

まとめ

『ジハード』は、十字軍時代を舞台に、東西の文化、思想が衝突する中で、人間の葛藤や成長を描いた壮大な物語です。歴史、戦略、人間ドラマなど、様々な要素が織り交ぜられており、読者を飽きさせません。ヴァレリーをはじめとする魅力的なキャラクターたちが織りなす物語は、今もなお多くの読者の心を掴んで離しません。

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