ヌールッディーン

ヌールッディーン・マフムード：イスラム世界の統一者、そしてサラディンの礎

ヌールッディーン・マフムード（1118年-1174年）は、12世紀中頃にシリアを中心に勢力を拡大した、セルジューク朝系アタベクであるザンギー朝の第2代君主です。彼の名は「信仰の光」を意味し、その生涯はイスラム世界の統一、そして十字軍との激戦の歴史と深く結びついています。

父の死とシリア支配

1146年、父であるイマードゥッディーン・ザンギーの暗殺後、兄と領地を分割し、ヌールッディーンはシリア西部を継承、アレッポを拠点としました。彼は、周辺のアルトゥク朝やブーリー朝と同盟を結び、十字軍勢力への抵抗を強化しました。中でもブーリー朝との同盟は、ヌールッディーンとウヌルの娘との結婚という形で強化され、政治的基盤の安定に繋がりました。

十字軍との戦い

1148年の第2回十字軍の侵攻は、ダマスカス包囲という思わぬ形でヌールッディーンとダマスカスを接近させました。十字軍の撤退後、ヌールッディーンは勢力を拡大し、アンティオキア公国の大部分を奪取、アンティオキア公レイモンを捕らえ処刑するなど、大きな勝利を収めました。エデッサ伯をも捕らえ、シリアにおける彼の支配は盤石なものとなりました。1154年にはダマスカスをも支配下に収め、シリアの大部分を統一しました。

東ローマ帝国、ルーム・セルジューク朝との関係

十字軍勢力との戦いのかたわら、ヌールッディーンは東ローマ帝国のマヌエル1世と同盟を結び、ルーム・セルジューク朝と対立しました。特にルーム・セルジューク朝のクルチ・アルスラーン2世とは多くの衝突があり、1173年にはマラティヤを巡る争いが勃発しました。この戦いでは、ヌールッディーンはダニシュメンド朝を支援し、ルーム・セルジューク朝軍をタウロス山脈で包囲、講和を締結させました。その後もマラティヤには自軍を駐留させ、支配下に置きました。

エジプトへの影響とサラディン

エジプトのファーティマ朝がエルサレム王国の攻撃を受けた際に、ヌールッディーンはクルド人の将軍シール・クーフ（サラディンの叔父）をエジプトに派遣しました。シール・クーフの甥であるサラディンはエジプトの宰相となり、事実上エジプトを支配下に置きました。しかし、サラディンは自立性を持ち、ヌールッディーンの十字軍への攻撃にも参加しないなど、独自行動をとりました。

死とその後

1174年、エジプト遠征の準備中にヌールッディーンは病気で亡くなりました。彼の死後、息子が後を継ぎましたが、1185年にはサラディンがエジプトを統一、アイユーブ朝を興しました。

人物像と業績

サラディンがイスラム世界の英雄として知られていますが、その基盤を作ったのはヌールッディーンであると言えるでしょう。勇敢な戦士であったと同時に、教育にも熱心で、アレッポやダマスカスなどにヌーリーヤ学院を設立し、イスラム教スンナ派の教学発展に大きく貢献しました。モスルの光のモスクも彼の命によって建てられたと伝えられています。

結論

ヌールッディーン・マフムードは、シリアを統一し、十字軍と戦い続けた、12世紀を代表するイスラムの指導者でした。彼の活動は、後のサラディンの台頭にも大きな影響を与えた、重要な歴史的役割を果たしました。彼の生涯と業績は、中世イスラム世界を理解する上で欠かせないものです。

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