ジヒドロテストステロン

ジヒドロテストステロン（DHT）のすべて

ジヒドロテストステロン（DHT、5α-ジヒドロテストステロン）は、体内での主要な男性ホルモンの一つです。テストステロンよりも強力なアンドロゲン作用を示し、男性の生殖器の発達や前立腺の機能に重要な役割を果たしています。しかし、一方で、脱毛症や前立腺肥大症といった疾患とも深く関わっています。本稿では、DHTの生合成、生理作用、臨床的意義、そして関連疾患について詳細に解説します。

DHTの生合成と代謝

DHTは、テストステロンから5α-還元酵素によって変換されます。この酵素は、前立腺、精嚢、毛包、皮膚など特定の組織に多く存在し、テストステロンをDHTに変換することで、局所的なアンドロゲン濃度を高めます。 体内で合成されたDHTは、その後、3α-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼや3β-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼによって代謝され、3α-アンドロスタンジオールや3β-アンドロスタンジオールといった代謝物になります。これらの代謝物は、アンドロゲン受容体とは独立した独自の作用を持つ神経ステロイドとして機能することも知られています。最終的には、グルクロン酸抱合体や硫酸抱合体となって尿中に排泄されます。

DHTの生理作用

DHTの主な作用は、アンドロゲン受容体への結合によるものです。DHTは、テストステロンよりもアンドロゲン受容体への親和性が高く、そのためより強力なアンドロゲン作用を示します。

胚発生期: 男性生殖器の分化に必須の役割を果たします。
思春期: 陰茎や陰嚢の成熟、体毛の成長、声変わりなどを促します。
成人期: 前立腺や精嚢の発達と維持に関与し、性機能にも影響を与えます。
その他: 皮脂の分泌、骨格筋の成長などにも関与している可能性が示唆されています。

DHTの代謝物である3α-アンドロスタンジオールと3β-アンドロスタンジオールは、それぞれGABA受容体やエストロゲン受容体に作用し、神経系の機能にも影響を与える可能性があります。

DHTと疾患

DHTの過剰な作用は、以下の疾患に関与していると考えられています。

男性型脱毛症（AGA）: 頭皮の毛包におけるDHTの作用が、脱毛の原因の一つとなります。
前立腺肥大症（BPH）: 前立腺の増大にDHTが関与し、排尿障害などの症状を引き起こします。
前立腺がん: 前立腺がんの発生・増殖にDHTが関与する可能性が示唆されています。
痤瘡（ニキビ）: 皮脂分泌の増加にDHTが関与していると考えられています。

5α-還元酵素欠損症

5α-還元酵素欠損症は、5α-還元酵素の遺伝子異常によってDHTが産生されない、もしくは産生量が著しく減少する疾患です。このため、遺伝子型は男性（XY）であるものの、外見は女性に近い性分化を示す「半陰陽」の状態となります。思春期以降は男性的な二次性徴が現れることが多いものの、男性器の発達には程度に差が見られます。この疾患の研究は、DHTの生物学的役割を理解する上で非常に重要です。

DHTの臨床的意義

血中DHT濃度の測定は、以下の目的で行われます。

男性不妊症の検査: 精巣機能の異常の有無を調べるために測定されます。
前立腺がんの診断: 前立腺がんの進行度や内分泌療法の効果予測に役立ちます。
* AGAやBPHなどの治療: これらの疾患に対する治療効果を評価するために測定されます。

DHTの医学的用途

海外では、男性ホルモン補充療法としてDHT製剤が用いられることがあります。ただし、入手方法は限られており、すべての地域で利用できるわけではありません。

まとめ

DHTは、男性の生殖器の発達や機能に不可欠な男性ホルモンです。しかし、その過剰な作用は、様々な疾患を引き起こす可能性があります。DHTの生合成、代謝、生理作用、そして臨床的意義を理解することは、これらの疾患の予防と治療に重要です。今後の研究により、DHTの作用機序や関連疾患についての理解がさらに深まることが期待されます。

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