ジメチルアリル二リン酸

ジメチルアリル二リン酸 (DMADP)

ジメチルアリル二リン酸（Dimethylallyl diphosphate, 略称: DMADP）は、天然に広く存在する重要な有機化合物です。特に、多様な構造と生理活性を持つテルペンおよびテルペノイド（イソプレノイドとも総称されます）の生合成において、不可欠な前駆体として機能します。DMADPはジメチルアリルピロリン酸（Dimethylallyl pyrophosphate, 略称: DMAPP）とも呼ばれます。

DMADPは、イソプレノイドの基本骨格を構成する「イソプレン単位」（炭素数5個の基本構造単位）の一つです。生体内には主に二つのイソプレン単位が存在し、DMADPと、その構造異性体であるイソペンテニル二リン酸（Isopentenyl diphosphate, 略称: IPP）がそれにあたります。これら二つの化合物は、イソプレノイド生合成経路において相互変換されながら利用され、様々な長さのプレニル二リン酸を経て、最終的に多様なテルペンやテルペノイドが生み出されます。

DMADPの生合成は、主に二つの異なる代謝経路によって行われます。

生合成経路

メバロン酸経路 (MVA経路)

真菌類や動物、一部の細菌で主に機能するメバロン酸経路では、ジメチルアリル二リン酸（DMADP）はイソペンテニル二リン酸（IPP）から合成されます。この経路で生成されたIPPは、イソペンテニル二リン酸イソメラーゼという酵素によって触媒される異性化反応を経て、DMADPへと変換されます。この反応は可逆的であり、IPPとDMADPの生体内濃度バランスを保つ上で重要です。DMADPへの変換は、テルペン鎖の伸長を開始するための反応性の高いアリル構造を生成するために不可欠なステップです。

非メバロン酸経路 (MEP経路)

植物、藻類、多くの細菌などが利用する非メバロン酸経路（MEP経路、DXP経路とも呼ばれます）においても、DMADPは合成されます。この経路では、最終段階の基質である(E)-4-ヒドロキシ-3-メチル-2-butenyl diphosphate（HMB-PP）が、HMB-PPレダクターゼ（酵素名: IspH）の働きによって還元および脱水反応を受けます。この反応によって、イソペンテニル二リン酸（IPP）とジメチルアリル二リン酸（DMADP）が同時に生成されます。非メバロン酸経路は、メバロン酸経路とは全く異なる分子から出発しますが、最終的に同じイソプレン単位であるIPPとDMADPを供給するという重要な役割を担っています。

関連事項

DMADPは、イソペンテニル二リン酸（IPP）とともに、より長鎖のプレニル二リン酸を合成するための出発物質となります。これらのプレニル二リン酸は、様々なテルペン・テルペノイドの直接的な前駆体となるだけでなく、タンパク質や脂質にプレニル基が付加されるプレニル化という生化学反応にも関与します。プレニル化は細胞機能の調節に重要な役割を果たしており、DMADPを含むイソプレn単位の供給がこのプロセスを支えています。

このように、ジメチルアリル二リン酸（DMADP）は、テルペン・テルペノイド生合成の要として、またプレニル化などの重要な生化学反応と関連する物質として、生命活動におけるその重要性が広く認識されています。その生合成は、生物の進化や代謝多様性を反映した二つの主要経路によって支えられています。

関連用語:

イソペンテニル二リン酸（IPP）
テルペン
プレニル化
メバロン酸経路
* 非メバロン酸経路

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