ジメチルトリスルフィド

ジメチルトリスルフィド

ジメチルトリスルフィド（dimethyl trisulfide）は、硫黄原子が3つ直線状に連結し、両端がメチル基と結合した構造を持つ有機硫黄化合物です。別名として三硫化メチルやジメチルペルトリスルフィド、あるいはジメチルトリスルファンとも称されます。この化合物は、食品の香りを構成する上で重要な役割を担うものの一つとして知られています。

物性とその特徴

この物質は、通常、無色透明からわずかに黄色みを帯びた淡黄色の液体として存在します。最も顕著な特徴は、その強い臭気です。特に新鮮なタマネギのような刺激的な香りを放ちます。これは、この化合物に含まれる硫黄原子に由来する特性であり、極めて低濃度であっても感知されるほど強力なものです。また、日本の消防法においては、その引火性などの性質から第4類危険物のうち、第2石油類に分類されており、取り扱いには注意が必要です。

天然における存在

ジメチルトリスルフィドは、様々な植物に天然に存在しています。例えば、ビールの製造に使用されるホップや、アブラナ科の野菜であるキャベツ、ブロッコリー、カリフラワーといった日常的な食材の中にも含まれています。これらの植物が持つ独特の風味の一部に、この化合物が寄与していると考えられています。

用途

ジメチルトリスルフィドは、その特徴的な香気を活かして、主に食品分野で香料として利用されています。

食品香料としての利用

非常に低い濃度で顕著な香りの効果を発揮するため、様々な加工食品に少量添加されることがあります。

肉フレーバー: 特にローストチキンのような加熱された肉の香りを再現または強調するために使用されることがあります。その添加量は極めて少なく、例えば肉フレーバー全体に対して10ppb（parts per billion、十億分率）程度の微量で効果を発揮します。
その他の食品: 焼菓子、ピクルス、ミートソース、スープなど、幅広い食品の風味付けに用いられます。これらの用途では、比較的高い濃度、例えば1ppm（parts per million、百万分率）程度が使用されることがあります。この濃度域でも、この化合物の強い香気が十分に感じられます。

香料用途としては、専門メーカーによって製造供給されており、例えばPenta Mfg.などがその製造を手がけています。

青腐乳（臭豆腐）の風味成分

中国の北京市で作られている、豆腐にケカビを付けて発酵・塩漬けした伝統的な食品である「青腐乳」（俗に「臭豆腐」や「青方」とも呼ばれます）の独特で複雑な風味は、多様な揮発性成分によって構成されています。ジメチルトリスルフィドもその構成成分の一つであり、インドール、フェノール、ジメチルジスルフィド、酢酸エチル、トリメチルヒドラジンといった他の化合物と共に存在しています。これらの成分が組み合わさることで、青腐乳特有の強い臭気と深い味わいが生まれており、ジメチルトリスルフィドはその独特な風味を形成する上で重要な役割を果たしています。

ジメチルトリスルフィドは、その強いタマネギ様の香気という個性を持ちながら、極微量で食品の風味を豊かにする香料として、あるいは伝統食品の複雑な香りを構成する一要素として、多様な形で私たちの食生活に関わっている化合物と言えます。

もう一度検索