ジャガー・XJ13

ジャガーXJ13：悲運のレーシングカー物語

ジャガーXJ13は、1967年にイギリスのジャガーがル・マン24時間レース参戦のために開発したプロトタイプレーシングカーです。ミッドシップレイアウトにV型12気筒エンジンを搭載した、ジャガー初の試みとして注目を集めました。しかし、XJ13はレースを走ることはありませんでした。その誕生から終焉まで、数々のドラマが秘められています。

開発の経緯：夢への挑戦

1960年代初頭から、ジャガーはDタイプの後継となるミッドシップ・レーシングカーの開発を検討していました。しかし、経営状況の悪化により、設計完了後も開発は長期にわたり中断されました。本格的な開発が始まったのは1965年。1966年3月には試作車が完成しました。

ボディ設計は、Cタイプ、Dタイプ、Eタイプ、XJSといった名車の開発にも携わったマルコム・セイヤーとマイク・キンバリーが担当しました。アルミニウム製ボディはEタイプを彷彿とさせるデザインで、テールライトはEタイプシリーズ1からの流用です。

心臓部となるエンジンは、新開発の5.0L V型12気筒DOHC。これはXKエンジンの2基を組み合わせ、バルブ角度や吸気ポートなどを専用設計したものです。最高出力は502馬力で、当時のフォード・マークIVやフェラーリ・330P4と互角に渡り合える性能を有していました。

計画の終焉：合併とレギュレーション変更

1967年、ジャガーはXJ13でル・マンに復帰することを決定し、秘密裏にテスト走行も行われました。しかし、同年、ブリティッシュ・モーター・コーポレーション（BMC）との合併騒動が発生。ジャガーはモータースポーツ活動を停止せざるを得なくなり、XJ13のル・マン挑戦は頓挫しました。

当時、Eタイプの販売が好調だったこともあり、ジャガー代表のウィリアム・ライオンズはV型12気筒エンジンの存在を秘密にしていました。車両実験部チーフのビル・ヘインズは、XJ13のテスト走行を何度もライオンズに進言しましたが、拒否されました。

しかし、ヘインズはチーフテストドライバーのノーマン・デヴィスと共に、無許可でMIRAテストセンターでXJ13をテスト走行。最高速度175mphを記録し、コースレコードまで更新する好成績を残しました。この行為が発覚し、ライオンズから叱責を受けましたが、最終的に「休日のみ」という条件付きで開発続行が認められました。

その後も、資金不足やシャシの問題で開発は難航。さらに追い打ちをかけるように、1967年夏、FIAが1968年度からグループ6プロトタイプレーシングカーの排気量を3.0Lに制限するレギュレーション変更を発表。XJ13はグループ6規定に適合しなくなり、レース参戦は完全に絶望的となりました。開発中止が決定しました。

開発中止後：プロモーションと事故

1971年、ジャガーは翌年からEタイプにV型12気筒エンジンを搭載することを決定しました。このエンジンはXJ13用エンジンの公道仕様です。ジャガー首脳陣は、倉庫に保管されていたXJ13を販売促進に活用することを思いつきました。

1972年1月20日、XJ13はプロモーションビデオ撮影のため、再びMIRAサーキットを走行しました。ドライバーはデヴィス。しかし、長期間放置されていたXJ13は、140mphで走行中にリアホイールの破損によりクラッシュ。XJ13は大破しましたが、デヴィスは無事でした。

関係者たちはXJ13を修復することを決意。オリジナルの図面や治具を元にシャーシを修復し、残存していた木型を使ってボディを新たに製作しました。1974年、XJ13はほぼ完全に修復されました。

現在

現在、修復されたXJ13はコヴェントリーのジャガー本社工場内にあるジャガー・ダイムラー・ヘリテイジ・トラストに保管され、各地のイベントで公開されています。レース出場は叶わなかったものの、その美しいデザインとドラマチックな歴史から、多くのファンを魅了し続けています。XJ13は、開発者たちの情熱と、技術革新、そして運命のいたずらによって生み出された、唯一無二のレーシングカーなのです。

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