ジャコウウシ

ジャコウウシ(学名:Ovibos moschatus)は、ウシ科に属する偶蹄類の一種です。現生するジャコウウシ属の動物としては、本種が唯一の存在です。

分布


自然な生息域はカナダ北部やデンマークグリーンランドなど北極圏の寒冷な地域です。過去にはユーラシア大陸北部にも分布していましたが、約3000年前に乱獲などによって姿を消しました。現在では、アメリカ合衆国アラスカ州ノルウェースヴァールバル諸島などにも移入され、新たな生息地を形成しています。

形態


頑丈でがっしりとした体つきをしています。体長はオスで約201~246センチメートル、メスで約194~201センチメートルほどです。肩までの高さは110~150センチメートルに達し、体重はオスが263~650キログラム、メスは280~295キログラムと、性的二形が見られます。全身は非常に長く硬い上毛と、その内側に生える柔らかい下毛という二重構造の毛皮で厚く覆われています。

雌雄ともに湾曲した角を持ちます。角は頭部の基部から下方へ向かって伸び、先端は外側を経由して上方へと向かいます。オスの角は特に基部が幅広くなっています。顔の特徴としては、眼窩が突出しており、涙骨に窪みがある個体もいます。吻端にある毛で覆われていない皮膚の部分(鼻鏡)は小さく、三角形をしています。目の下には眼下腺と呼ばれる臭腺があり、繁殖期にオスが分泌液を出します。前肢と後肢の中手骨中足骨は短く幅広いです。主蹄は短く幅広い形状で、先端が尖っています。主蹄の内側は直線的ですが、外側は半円形や三角形をしています。踵の設置面は蹄球と呼ばれる硬い皮膚で覆われており、左右の蹄を繋ぐ皮膚膜は非常に分厚く、特に前部は長い体毛で覆われています。側蹄も比較的大型です。
オスの老齢個体では、背中に黄褐色や淡黄色の鞍のような明るい色の斑紋が現れることがあります。乳頭の数は通常4個ですが、まれに2個の個体も確認されています。

分類史


化石記録によると、ジャコウウシは約70万年前のギュンツ氷期にヨーロッパに出現し、その後、約40万年前にベーリング地峡などを経て北アメリカ大陸に移動したと考えられています。現在のジャコウウシの亜種に関しては、その有効性について議論があり、いくつかの亜種名が提唱されているものの、亜種を認めない見解も存在します。

生態


夏季にはツンドラ地帯の水辺や湿原で暮らしますが、冬季には積雪の少ない斜面などに移動します。メスと幼獣は3頭から最大100頭にもなる群れを形成して行動します。夏季には小規模な群れに分散しますが、冬季には再び集まって大規模な群れとなります。オスは単独で行動するか、あるいはオスのみで小規模な群れを作るのが一般的です。オス同士は繁殖期に激しく争い、時速60kmにも達する速度で突進して角を突き合わせます。オオカミなどの天敵に襲われた際や、厳しい寒さに晒されるときには、成獣が外側を向いて円陣を組み、その中に幼獣を入れて守るという独特の防御行動をとることが知られています。食性は植物食で、主に草や、カバノキ、ヤナギなどの木のを食べます。繁殖形態は胎生です。通常8月頃に交尾が行われ、約8か月の妊娠期間を経て、翌年の4月から5月にかけて出産します。1回の出産で生まれる幼獣は1頭です。繁殖期のオスが眼下腺から出す独特の匂いのある分泌液が、ジャコウウシという名前の由来になったと考えられています。

人間との関係


ユーラシア大陸にかつて生息していたジャコウウシは、約3000年前に人間による過剰な捕獲などが原因で絶滅したとされています。ジャコウウシの外毛の下にある柔らかい産毛は「キヴィアック」(QIVIUK)と呼ばれ、非常に希少で高価な高級繊維として利用されています。このキヴィアックを採取するための捕獲は、カナダ政府によって年間の捕獲数が制限されるなど、管理が行われています。

関連項目


ウシ科
ヤギ亜科

外部リンク


ジャコウウシ - ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト

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