ジャシンタ・マルト

聖ヤシンタ・マルト：ファティマの聖母出現と幼い聖人の生涯

1910年3月11日、ポルトガルで生まれたヤシンタ・マルトは、カトリック教会において重要な意味を持つファティマの聖母出現の証言者として知られています。彼女の従姉にあたるルシア・ドス・サントスと共に、1917年5月から10月にかけて複数回に渡り、聖母マリアの出現を目撃しました。

ヤシンタは、ごく普通の農村の少女でした。無学ではありましたが、強い信仰心と深い慈悲の心を持っていました。羊飼いの仕事に従事する傍ら、ルシアや兄のフランシスコと共に、熱心に祈りを捧げていました。聖母出現を経験する以前から、ヤシンタは優しい性格で知られており、歌や踊りも得意としていました。しかし、聖母との出会いをきっかけに、それらの娯楽を控えるようになり、信仰への道を歩み始めます。

聖母からの啓示は、ヤシンタの心に深い感銘を与えました。特に、聖母出現の際に見たという地獄の恐ろしい幻視は、彼女の心に強く刻み込まれ、罪の償いと回心の必要性を痛感させることとなりました。彼女は、兄のフランシスコと共に、厳しい禁欲生活を送るようになります。祈りと断食、そして徹底した悔い改めを通して、世界の罪のために苦しむイエス・キリストを慰めようとしました。この献身的な姿勢は、彼女がわずか9歳で亡くなるまで続きました。

1918年、ヨーロッパを襲ったスペイン風邪により、ヤシンタとフランシスコは共に病気になります。フランシスコは自宅で静かに息を引き取りましたが、ヤシンタは延命措置のため病院へ搬送されました。そこで彼女は、肋膜炎を患い、激しい痛みに苦しみながら、それでもなお罪人の救済のために祈りを捧げ続けました。彼女は、無麻酔での手術にも耐え抜き、その苦しみをすべて神の御心に委ねました。

最期の時、ヤシンタはルシアに「隠れたイエスを迎えることができずに死ななければならないのでしょうか」と嘆いたと言われています。1920年2月20日、彼女はたった9歳でこの世を去りました。彼女の死は、周囲の人々に深い悲しみと同時に、彼女の信仰の深さと神への献身の強さを示すものとなりました。

ヤシンタの遺体は、最初はオウレンの共同墓地に埋葬されましたが、後にファティマのバジリカに改葬されました。1946年には列福の運動が始まり、1935年と1951年の二度、ヤシンタの遺体が掘り起こされた際に、彼女の顔は腐敗を免れていたと伝えられています。これらの事実は、ヤシンタの聖性の証として、人々の信仰を支え続けています。

2000年5月13日、教皇ヨハネ・パウロ2世により、兄のフランシスコと共に福者として宣せられ、そして2017年5月13日、フランシスコ法王によって聖人とされました。殉教者以外では、最も若い年齢で聖人となった人物として、ヤシンタ・マルトは今も多くの人々に敬愛されています。

ルシア・ドス・サントスは、ヤシンタが聖母出現の他に多くの私的な啓示を受けていたと証言しています。それらの啓示の中には、未来の出来事や、地獄の恐ろしい姿、そして教会や世界に対する警告なども含まれていました。これらの啓示は、人々に信仰の重要性と、罪からの悔い改めの必要性を訴えかけるものとして、現在もなお多くの人々の心に響き渡っています。ヤシンタの言葉、特に「可哀そうなパパ様、罪人の為にお気の毒な！」という言葉は、彼女が持つ深い慈悲の心を象徴するものです。

ヤシンタ・マルトの生涯は、幼くして亡くなったにもかかわらず、強い信仰と神への献身、そして人々への深い愛を示す、感動的な物語です。彼女の聖性は、多くの人々にとって、信仰と希望の光となり続けています。

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