ジャハーンギール

ジャハーンギール：ムガル帝国の皇帝とその生涯

ジャハーンギール（1569年 - 1627年）は、ムガル帝国第4代皇帝として、1605年から1627年までその座にありました。父は名君として知られるアクバル皇帝です。彼は「世界を征服する者」を意味する称号を戴冠しましたが、その治世は決して平穏なものではありませんでした。

誕生とアクバル皇帝との複雑な関係

ジャハーンギールは、アジュメールでアクバル皇帝とラージプートの王女マリヤム・ウッザマーニー・ベーグムの間に生まれました。彼の誕生には、後継ぎとなる男子の誕生を願っていたアクバル皇帝が聖者サリーム・チシュティーに祈願し、予言どおりに息子が誕生したという逸話が残されています。

幼少期から軍務や行政の実務に携わったジャハーンギールでしたが、父アクバルとの関係は複雑でした。アクバルの厳格な教育と、ジャハーンギールの放縦な性格はたびたび衝突し、反乱にまで発展したこともありました。アブル・ファズルの暗殺事件は、その複雑な関係を象徴する出来事です。ジャハーンギールは、反乱を鎮圧するよう命じられた際に、父への反抗を露わにしました。この事件は、父子の確執を決定的にする出来事となりました。

皇帝即位と治世

1605年、アクバル皇帝の死後、ジャハーンギールは帝位を継承しました。彼は、アクバルの宗教寛容政策を継承し、ヒンドゥー教徒への寛容な姿勢を示しました。しかし、彼の治世は必ずしも平和なものではありませんでした。長男フスローの反乱、シク教の第5代グル・アルジュンの処刑など、様々な問題を抱えていました。

ジャハーンギールは、版図拡張に意欲的で、ラージャスターン方面では領土を拡大しました。メーワール王国との長期にわたる争いに終止符を打ち、講和を成立させました。しかし、デカン地方では、アフマドナガル王国のマリク・アンバルとの争いで領土の縮小を余儀なくされました。また、サファヴィー朝とのカンダハールをめぐる争いは、彼の治世を通じて大きな問題となりました。

ヌール・ジャハーンの影響と後継者争い

ジャハーンギールの治世において重要な役割を果たしたのが、愛妾ヌール・ジャハーンとその兄アーサフ・ハーンです。ヌール・ジャハーンは、国政に大きな影響力を持ち、事実上の摂政として振る舞ったとされています。彼女の強い影響力は、宮廷内の権力闘争を激化させ、皇位継承をめぐる争いを招きました。

ジャハーンギールの息子たちであるフスロー、パルヴィーズ、フッラム、シャフリヤールらは、それぞれ帝位を狙い、激しい争いを繰り広げました。この争いは、ジャハーンギールの死後も続き、最終的にはフッラム（後のシャー・ジャハーン）が勝利しました。

文化芸術への貢献

ジャハーンギールは、文化芸術の保護にも熱心でした。父アクバルと同様に、様々な画家を宮廷に招き入れ、ムガル細密画の発展に貢献しました。ヒンドゥー文化とイスラーム文化が融合した独特の芸術様式は、ジャハーンギールの治世において花開きました。

死と遺産

1627年、ジャハーンギールはラホールへ向かう途中で亡くなりました。彼の死後、息子の間で激しい後継者争いが勃発し、最終的にフッラムがシャー・ジャハーンとして帝位を継承しました。ジャハーンギールの治世は、ムガル帝国の繁栄と同時に、様々な問題を抱えていた時代であったと言えるでしょう。彼の治世は、ムガル帝国史において重要な転換期となりました。

参考文献

Barbara D. Metcakf, Thomas R. Metcalf 著、河野肇 訳『ケンブリッジ版世界各国史_インドの歴史』創土社、2006年
ジョン・エスポジト 著、小田切勝子 訳『イスラームの歴史2 拡大する帝国』共同通信社、2005年
アンドレ・クロー 著、杉村裕史 訳『ムガル帝国の興亡』法政大学出版局、2001年
フランシス・ロビンソン 著、月森左知 訳『ムガル皇帝歴代誌 インド、イラン、中央アジアのイスラーム諸王国の興亡（1206年 - 1925年）』創元社、2009年

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