アクバル大帝:ムガル帝国を築いた宗教的寛容の君主
アクバル(
1542年10月25日 -
1605年10月27日)は、北インドの
ムガル帝国を統治した第3代皇帝です。アクバル1世、あるいはアクバル大帝とも呼ばれ、
中央アジア系ムガル朝の祖である
バーブルが築いた基礎を基盤に、
ムガル帝国を真の巨大帝国へと発展させました。その治世は、宗教的寛容と広大な版図の拡大、そして強力な中央集権体制の構築によって特徴づけられます。アショーカ王やスール朝のシェール・シャーと並ぶ、インド史における最も成功した君主の一人と評価されています。
激動の幼少期と帝位継承
アクバルは、第2代皇帝フマーユーンと妃ハミーダ・バーヌー・ベーグムの間に、シンド地方ウマルコート城で誕生しました。誕生名はバドルッディーン・ムハンマド・アクバル。幼少期は、父フマーユーンがシェール・シャー率いるスール朝に敗れ、流浪の生活を送る中で過ごしました。そのため、彼はカンダハールやカーブルを転々とし、叔父らのもとに人質として預けられるなど、不安定な日々を送りました。
1556年、父フマーユーンの急死により、13歳の若さで皇帝に即位しました。
第二次パーニーパットの戦い
即位直後、アクバルはスール朝の残党勢力の脅威に直面しました。中でも、元野菜売りの出身ながらスール朝の軍総司令官にまで上り詰めたヘームーは、強力な敵でした。ヘームーはデリーと
アーグラを占領し、アクバルはパンジャーブで軍を率いてヘームーに対抗しました。圧倒的な兵力差にもかかわらず、アクバルとバイラム・ハーン(摂政)率いるムガル軍は、第二次パーニーパットの戦いでヘームーを破り、帝国の支配を確立しました。
宮廷闘争と皇帝権の確立
当初、摂政バイラム・ハーンは権勢を振るいましたが、彼の傲慢さやシーア派への傾倒、後宮勢力との対立などが貴族たちの反感を招きました。アクバルは母や乳母などの協力を得て、バイラム・ハーンを
メッカ巡礼という名目で追放しました。しかし、バイラム・ハーンは反乱を起こし、鎮圧後に殺害されました。その後、アクバルの乳母マーハム・アナガとその息子アドハム・ハーンが権力を握りましたが、アドハム・ハーンの暴挙により、アクバルは彼を処刑し、マーハム・アナガもショックのあまり亡くなりました。これにより、アクバルはついに皇帝としての絶対権力を掌握しました。
宗教的寛容と帝国の拡大
アクバルは、
ムスリムだけでなく
ヒンドゥー教徒を含む多様な民族・宗教からなる帝国を統治するにあたって、宗教的寛容政策を積極的に推進しました。ジズヤ(人頭税)の廃止、ラージプートとの同盟関係構築など、宗教を超えた融和政策は、帝国の安定と発展に大きく貢献しました。また、自身の宗教観に基づいた「ディーニ・イラーヒー」という独自の宗教思想を提唱したとも言われていますが、その実態については議論があります。
軍事遠征と版図拡大
アクバルは、ラージプート、ゴンドワナ、ウズベク、グジャラート、ベンガル、オリッサ、そして北西地方へと軍事遠征を繰り返し、帝国の版図を大幅に拡大しました。特に、メーワール王国との長期にわたる戦いは有名です。また、デカン地方への進出も試み、南インドのヴィジャヤナガル王国とも接触しました。これらの遠征を通じて、アクバルは
ムガル帝国の軍事力を示し、支配を強化しました。
内政改革とマンサブダーリー制
広大な帝国を統治するために、アクバルは内政改革にも力を入れます。ザブト制という土地税制度を導入し、生産能力に応じた課税を行うことで経済を活性化させました。さらに、マンサブダーリー制という独自の官僚・軍事制度を創設し、官僚と軍人の序列と待遇を明確化することで、帝国の安定した統治体制と軍事力の維持を実現しました。
文化芸術の保護
アクバルは芸術や文化にも造詣が深く、ムガル絵画の黄金期を築き上げました。宮廷には優れた文化人が集まり、
サンスクリット語からの
ペルシア語への翻訳事業なども盛んに行われました。有名な音楽家ミーヤーン・ターンセーンを宮廷に迎え入れるなど、文化芸術の保護・育成にも貢献しました。
晩年とその後
晩年は、後継者問題で長男サリームとの関係が悪化しました。サリームは反乱を起こし、アクバルは鎮圧に乗り出しますが、母ハミーダの病気のため、和解に至りました。
1605年、アクバルは
赤痢で崩御しました。その後、サリームはジャハーンギールとして即位しました。アクバルの死後も、彼の宗教的寛容と統治手腕は、インドの歴史に大きな影響を与え続けました。彼の功績は、現在もインドの人々によって高く評価されています。