ジャン・チャクムル

1997年12月5日、トルコのアンカラに生まれたジャン・チャクムルは、国際的に活躍するピアニストです。彼の名が世界に広く知られる契機となったのは、2018年に開催された第10回浜松国際ピアノコンクールでの優勝でした。

音楽愛好家の家庭で育ち、幼い頃から音楽に親しんだチャクムルは、当初はギターに興味を持ちましたが、勧められてピアノを始めました。レイラ・ベケンスィルやアイシェ・カプタンから手ほどきを受け、その後エムレ・シェンに師事。菅野潤からも指導を受けました。アンカラでの学業と並行して、パリのスコラ・カントルムやドイツのフランツ・リスト・ヴァイマル音楽大学でも研鑽を積み、マルチェッラ・クルデーリやグリゴリー・グルツマンらに師事。また、アラン・ヴァイスやアリエ・ヴァルディといった多くの著名な指導者のマスタークラスに参加し、特にディアネ・アンデルセンには長期間にわたり師事しています。

若手音楽家への支援も、彼の活動を力強く後押ししています。トルコのペキネル姉妹によるプロジェクトやリヒテンシュタイン国際音楽アカデミーからの奨学金やサポートを受け、演奏機会や研鑽の機会を広げました。浜松コンクール優勝後は、コンクールで使用した河合楽器製作所SK-EXを愛用し、日本での主要な演奏活動や録音に用いています。

国際コンクールでの成功は輝かしく、2017年のスコットランド国際ピアノコンクール優勝に続き、翌年の浜松国際ピアノコンクールでも優勝。他にも、ローマ、ヴァイマル、ヴィリニュスといった国際コンクールで上位入賞や特別賞を獲得し、若い頃からその才能は高く評価されていました。

演奏活動は世界各地に及び、欧州や日本の主要なコンサートホール、音楽祭に招かれています。国内外の著名なオーケストラと共演し、リサイタルや室内楽にも精力的に取り組んでいます。特に室内楽への愛着を強く持ち、浜松コンクールでの室内楽賞受賞はその表れの一つです。チェリストのジャマル・アリイェフやコントラバス奏者のドミニク・ワグナーらと共演し、2022年には自身のピアノトリオTrio Vecandoを結成するなど、室内楽の分野でも積極的に活動しています。

新型コロナウイルスの影響下でも活動を継続し、ICMA授賞式やパリでのリサイタル、日本ツアーなどを成功させました。困難な状況下でも聴衆に音楽を届けることに情熱を傾けています。

レパートリーは、バッハやハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンといった古典派、シューベルト、リスト、ブラームスなどのロマン派作品を基軸としながら、バルトークやトルコの作曲家、現代作品まで幅広く取り上げています。特にシューベルトとバルトークには深い思い入れを持ち、これらの作曲家の作品は彼の演奏の中核をなしています。彼ならではの知的な解釈と表現は、高く評価されています。

録音活動も盛んで、ドイツのBISレコードから継続的にアルバムをリリース。浜松コンクール優勝記念盤や、シューベルト、バルトーク作品などを収めたアルバムは国際的な音楽賞を受賞しています。他のアーティストのアルバムやコンクール関連の企画盤にも参加しています。

演奏家としてだけでなく、ジャン・チャクムルは執筆や教育といった分野でも活躍しています。トルコの音楽雑誌への継続的な寄稿、自身のリサイタルやCDのプログラムノート・ライナーノーツ執筆を手がけ、音楽への深い洞察を言葉でも表現しています。音楽普及への意識も高く、クラシック音楽に触れる機会の少ない地域での演奏活動にも取り組みました。後進の育成にも熱心で、マスタークラスで指導するほか、ロンドンの音楽院で教授を務めています。

ジャン・チャクムルは、卓越した演奏技術、知的な音楽へのアプローチ、そして演奏、執筆、教育といった多角的な活動を通じて、現代の音楽界において注目すべき存在となっています。

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