ジャン＝アンリ・ダングルベール

ジャン＝アンリ・ダングルベール（Jean-Henri d'Anglebert）は、1629年4月1日に生まれ、1691年4月23日に世を去ったフランスの音楽家です。特に盛期バロックの時代において、作曲家および宮廷のクラヴサン奏者として重要な役割を果たしました。

経歴

ダングルベールは、現在のムーズ県にあたるバル＝ル＝デュックにおいて、裕福な商人階級の家庭に生を受けました。彼の周囲には音楽が身近にあり、義兄であるフランソワ・ロベルデはオルガニストとして活躍していました。

音楽の才能を示した彼は、当時の著名なクラヴサン奏者であったジャック・シャンピオン・ド・シャンボニエールに師事し、その薫陶を受けました。シャンボニエールが宮廷での信任を失ったのに伴い、1663年か1664年頃、ダングルベールはその職を引き継ぎ、ルイ14世の王室音楽教師および宮廷クラヴサン奏者の地位に就任しました。この職は世襲制であり、彼の没後には息子がその地位を継承しました。

作品

ダングルベールの作品で、生前に出版された唯一のものが、1689年に刊行された『クラヴサン曲集（Pièces de clavecin）』です。この曲集は、4つの組曲によって構成されており、それぞれにプレリュードや当時の様々な舞曲（アルマンド、クーラント、サラバンド、ジーグなど）が収められています。また、この曲集には、師への敬意を示す追悼曲である《シャンボニエール氏のトンボー（Le tombeau de M. de Chambonnières）》というユニークな作品や、当時のフランス音楽界を牽引したジャン＝バティスト・リュリのオペラやバレエ音楽から採られた旋律をクラヴサン用に編曲した作品なども含まれており、当時のフランス鍵盤音楽の様式を知る上で非常に価値のある資料となっています。

この主要な作品集の他に、彼の初期にあたる少年時代に作曲した主題に基づくとされるオルガンのための5曲のフーガも現存しており、彼の音楽的発展の過程を示すものとして知られています。

ダングルベールの音楽は、フランス宮廷の洗練された趣味を反映しており、その装飾音符の扱い（リュリの記号を用いた詳細な指示）や、壮麗さと情感を兼ね備えたスタイルは、後世の作曲家にも影響を与えました。特に彼の『クラヴサン曲集』は、フランスのクラヴサン楽派における重要なレパートリーの一つとして、現在でも演奏され、研究されています。

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