ジャック・シャンピオン・ド・シャンボニエール

ジャック・シャンピオン・ド・シャンボニエールは、17世紀フランスの初期バロック時代を代表する音楽家です。クラヴサンの名手であり、作曲家としても知られています。特に、後のフランス音楽史に多大な影響を与えたフランス・クラヴサン楽派の先駆者として、その功績は非常に大きいと言えます。フランソワ・クープランやジャン＝フィリップ・ラモーといった偉大な音楽家たちの登場に道を拓いた存在でしょう。

彼の家系は代々音楽家を受け継いできた名門でした。祖父トマ、そして父ジャックもまた、フランス国王に仕えるクラヴサン奏者であったのです。この地位は「襲職権」という独特のシステムによって、父から息子へと継承されました。シャンボニエール自身も、1611年には父の地位を引き継ぐ権利を得ており、1638年からは父と共にその責務を担いました。

同時代には、科学者のクリスティアーン・ホイヘンスやマラン・メルセンヌといった著名な人物からも、彼のクラヴサン演奏の卓越した技術は絶賛されました。そのヴィルトゥオーソぶりは広く知られていたのです。彼は自身の邸宅で、自ら雇った音楽家たちと共演する演奏会を催しました。これは、王侯貴族の庇護下にない、フランスでは初めての私的な演奏会であったとされています。

シャンボニエールは、あたかも音楽を愛好する貴族であるかのように振る舞うことを好み、豪華な生活を送りました。例えば、乗馬の教師を雇うなど、その生活スタイルは収入に見合わないものであり、これが後に経済的な困窮を招く一因となったのです。私生活では二度結婚しています。最初の妻マリー・ル・クラークの死後、マルグリット・フェレと再婚しましたが、彼女とは1657年に離婚しています。贅沢を追求する彼の生活様式は、夫婦関係にも影を落としたようです。

音楽的な才能は、自らの演奏や作曲にとどまりませんでした。ショーム＝アン＝ブリの所領で開かれた催しで、若きルイ・クープランの才能を見出した逸話は有名です。シャンボニエールは彼をパリに招き、その後のクープランの華々しい活躍のきっかけを作りました。また、ジャン＝アンリ・ダングルベールやジャック・アルデルといった後進の育成にも力を注ぎ、多くの弟子を育てました。

彼はクラヴサン演奏だけでなく、優れたダンサーでもありました。1653年には有名な「Ballet Royal de la Nuit」（夜の王宮バレエ）に出演するなど、多才ぶりを発揮しました。しかし、1650年代半ば頃、ルイ14世の宮廷音楽家としての地位や影響力は次第に失われていきます。これは、当時台頭していたジャン＝バティスト・リュリの楽団で通奏低音を演奏することを拒否したことが原因とも推測されています。宮廷での寵を失った彼は、最終的にその地位を弟子のダングルベールに譲り渡すことになりました。尊敬するシャンボニエールの困窮を知ったルイ・クープランは、彼の地位を継ぐことを固辞したという話が伝わっています。

経済的に追い詰められたシャンボニエールは、自らの作品を出版することを決断します。そして1670年、王室からの恩恵を受けて、2冊のクラヴサン曲集を刊行しました。これらの楽譜集には約70曲が収められており、フランスで初めて印刷されたクラヴサン音楽の出版物として、その歴史的な価値は極めて高いものです。この出版から間もなく、シャンボニエールは貧困の中でその生涯を終えたとされています。

彼の作品は、前述の2冊の出版譜の他に、いくつかの手稿譜にも残されています。特にパリのフランス国立図書館に所蔵されている「ボーアン写本」は、彼の作品を知る上で非常に重要な資料です。作品の多くは舞曲であり、中でもクーラントが最も数を占めます。その他、アルマンドやサラバンド、ジーグなども作曲しました。初期の形式であるガイヤルドやパヴァーヌ、メヌエット、シャコンヌなども見られますが、プレリュードの形式は確認されていないようです。彼の作品には、リュート音楽の影響を受けてか、印象的あるいは謎めいた雰囲気を持つ題名が付けられたものがあります。このような題名付けの習慣は、その後フランスの器楽音楽において、デュフリに至るまで長く受け継がれる独特の特徴となりました。シャンボニエールの音楽は、その後のフランス・クラヴサン音楽の発展に不可欠な基盤を築いたと言えるでしょう。

もう一度検索