ジャン＝フランシス・オービュルタン

ジャン＝フランシス・オービュルタンの生涯と芸術

ジャン＝フランシス・オービュルタン（Jean Francis Auburtin, 1866年12月2日 - 1930年5月22日）は、フランスの装飾画家であり、その作品は象徴主義的な傾向を持ちながら、自然への深い愛情と観察眼に裏打ちされています。彼は、生涯を通じて多様な風景やテーマに取り組み、独自の芸術世界を築き上げました。

生い立ちと教育

オービュルタンはロレーヌ地方出身で、パリ市の建築家アレクサンダー・エミール・オービュルタンの長男として生まれました。1875年にはパリのアルザス学院に入学し、アンドレ・ジッドやピエール・ルイスといった文学界の著名人と同窓生でした。その後、パリ国立高等美術学校に進学し、画家のテオドール・デビリに師事しましたが、ローマ大賞に応募することなく学校を去りました。アルザス学院時代の同級生の姉妹であるマーサ・ディロワと結婚し、1893年にはイタリアへの新婚旅行に出かけ、そこで15世紀美術の源流に触れることになりました。

芸術活動の展開

1897年、オービュルタンはロスコフやバニュルス＝シュル＝メールの水中水族館で動植物の研究を行い、ソルボンヌ大学動物学科の講堂を飾るための装飾画に生かせる多くの海底の動植物のスケッチを描きました。この作品は1898年に完成し、後にパリ市の芸術作品保管所に寄託されました。彼はイル・ドール島やイエール諸島のポルケロール島に長期滞在したほか、ブルターニュ地方のエルキ、イル＝ド＝ブレア島、プルーマナック、ベル＝イル＝アン＝メールなどでも多くの優れた作品を生み出しました。さらに、コルシカ島やピレネー山脈、ランド県の湖群、そして友人である画家アルバート・ベナール夫妻が暮らすアヌシー湖畔のタロワール村など、フランス各地を訪れました。

パリのリヨン駅の装飾を担当した建築家マリウス・トゥドワールの友人でもあったオービュルタンは、1900年にリヨン駅のレストラン「トラン・ブルー」の装飾にも参加し、ベル・エポック調の華麗な空間づくりに貢献しました。また、1905年に描き替えられた絵画の一部も手がけています。

1904年には、オート・ノルマンディー地方のヴァランジュヴィル＝シュル＝メールの美しい風景に魅了され、1907年に土地を購入し、弟で建築家のジャック・マルセル・オービュルタンに建築を依頼しました。また、クロード・モネが描いた『ヴァランジュヴィルの税関史の小屋』で知られる、ギヨーム・マレが造園したボワ・デ・ムティエ庭園の建築にも協力しました。パリにはサン＝クルーのカルノー河岸にアトリエを構え、そこでオーギュスト・ロダンとの親交を深め、互いにモデルを交換するなど、交流がありました。また、このアトリエで1914年には、アメリカのダンサーロイ・フラーとそのバンドがショーを行いました。1909年から1920年にかけては、イサドラ・ダンカンのダンス学校でグワッシュ画を描いています。

オービュルタンはレジオンドヌール勲章を受章しています。2005年からは、オート＝ヴィエンヌ県のナンティア町役場に本部を置く「ジャン＝フランシス・オービュルタンの友人と子孫」という協会が、彼の詳細なカタログの作成や作品の紹介・奨励活動を行っています。

作品の特徴

オービュルタンの作品は、デッサン、水彩画、グワッシュ、パステルなど多岐にわたります。初期には、写実的な表現を基盤にしながらも、次第に象徴主義的な要素を取り入れるようになります。特に、海や海岸の風景を描いた作品には、神秘的な雰囲気が漂い、自然の力強さや美しさを感じさせます。

彼の作品には、以下のような特徴が見られます。

自然への深い愛情と観察眼: ブルターニュや地中海の海岸風景、植物、動物などを丁寧に観察し、その本質を捉えようとしています。
象徴主義的な表現: 神話や伝説、文学作品などをテーマにした作品では、象徴的な要素を多く取り入れ、観る者の想像力を掻き立てます。
色彩の繊細さ: 水彩やグワッシュを用いた作品では、透明感のある色彩を駆使し、光と影の効果を巧みに表現しています。
多様な画材と技法: デッサン、水彩、グワッシュ、パステルなど、さまざまな画材と技法を使いこなし、表現の幅を広げています。

代表的な作品

オービュルタンの代表的な作品としては、以下のものが挙げられます。

『海底』(1898年): ソルボンヌ大学動物学科の講堂のために描かれた装飾画で、海底の動植物が生き生きと描かれています。
『オルフェウス』(1906年): ギリシャ神話のオルフェウスをテーマにした作品で、象徴主義的な表現が際立っています。
『水の詩』(1912年): 海の神秘的な美しさを捉えた作品で、色彩の美しさと繊細な筆致が特徴的です。
『ポルケロール諸島ル・ソワール』(1904年): パステルで描かれた作品で、夕暮れ時のポルケロール島の風景が叙情的に描かれています。
* 『ヴァレンジュヴィルの崖』(不明): グワッシュで描かれた作品で、ヴァレンジュヴィルの崖の雄大さを表現しています。

美術館と展覧会

オービュルタンの作品は、ルーヴル美術館、オルセー美術館、ポン＝タヴァン美術館、マルロー美術館など、フランス各地の美術館に所蔵されています。また、個展やグループ展も多数開催されており、彼の作品は今もなお多くの人々を魅了し続けています。


ジャン＝フランシス・オービュルタンは、自然への深い愛情と独自の感性を持ち、多岐にわたる作品を残した偉大な画家です。彼の作品を通して、19世紀末から20世紀初頭のフランス美術の豊かな世界に触れてみてください。

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