ジャン＝フランソワ・ラルウェット

ジャン＝フランソワ・ラルウェット（Jean-François Lalouette）は、1651年にパリで生まれ、1728年に同じくパリで生涯を閉じたフランスの作曲家であり、有能な指揮者でした。彼のキャリアは、当時のフランス音楽界を牽引していた巨匠、ジャン＝バティスト・リュリとの複雑な関係から始まります。

ラルウェットはリュリに師事し、その右腕とも言える存在として、単なる弟子にとどまらず、秘書業務や、リュリの作品の編曲、オーケストレーションの最終的な仕上げなど、重要な役割を担いました。師の創作活動を間近で支える中で、彼は音楽家としての腕を磨いていったと考えられます。しかし、両者の関係は長くは続きませんでした。1677年、リュリが手掛けた叙情悲劇『イシス』に関して、ラルウェットがその音楽の一部が自身の手によるものだと主張したことが、リュリの激しい怒りを買います。この一件が原因となり、ラルウェットはリュリの庇護を失い、職を追われることとなりました。これは、師弟間の信頼関係が崩壊した痛ましい出来事であり、その後の彼のキャリアにも影響を与えることになります。

リュリのもとを離れた後、ラルウェットの足跡は一時的に不明瞭になります。数年間の空白期間を経て、彼は再び音楽界の表舞台に姿を現しました。1683年には、フランス音楽家にとって非常に栄誉あるポストであった、ヴェルサイユ宮殿礼拝堂のオルガニストの選考候補者の中に彼の名前が確認されています。しかし、残念ながらこのコンクールでは最終的な地位を得ることはできませんでした。

それでも、ラルウェットは教会音楽家としての道を確実に歩み始めます。1693年には、歴史あるルーアン大聖堂の楽長に就任しました。これは、彼が宗教音楽の分野で確固たる評価を得ていたことを示唆しています。さらに1695年には、ヴェルサイユのノートルダム寺院や、パリの主要な教会の一つであるサン＝ジェルマン＝ロクセロワ教会の楽長職を得て、その活動の場を広げました。

彼のキャリアの頂点は、パリのノートルダム大聖堂の楽長に就任したことでしょう。1700年、当時の著名な音楽家アンドレ・カンプラの後任として、この名誉ある地位に就きました。ラルウェットはここで最初の任期を1716年8月31日まで務めます。一時その座を離れますが、1718年には再びノートルダム大聖堂の楽長として復帰し、1727年初めまでその職にありました。この二度目の就任の際には、ラルウェットの人となりを示す興味深いエピソードが伝えられています。1718年の楽長選考にあたり、候補者たちは課題曲としてラルウェットが作曲した「ミゼレレ」（Miserere）を指揮することになりました。自身の作品が他の候補者によって十分に表現されないことを案じたラルウェットは、自らが指揮台に立ち、見事な演奏を披露しました。この結果、彼自身が再び楽長の座に就くことになったのです。このエピソードは、彼が単なる作曲家ではなく、指揮者としても優れていたこと、そして自身の作品に対する強い思い入れを持っていたことを物語っています。

ラルウェットの作品は、彼がリュリとの関係で苦い経験をしたためか、あまり多くが出版されていません。今日知られている主要な作品としては、1726年と1730年に出版されたモテット集があります。しかし、1775年に出版された『戯曲逸話集（Anecdotes dramatiques）』のような同時代の文献には、リュリの作品の中にしばしばラルウェットが作曲した部分が含まれているという言及が見られます。これは、彼がリュリの工房で単なる助手としてだけでなく、共同作業に近い形で関わっていた可能性を示唆しており、彼の才能がリュリの作品を通して後世に伝わった側面があることを示唆しています。

ラルウェットは、リュリという巨匠の影に隠れがちな存在ではありますが、パリのノートルダム大聖堂をはじめとする主要な教会で長きにわたり楽長を務め、その音楽活動は当時のフランス音楽、特に教会音楽において重要な位置を占めていました。彼の生涯は、才能ある音楽家が権力ある師との関係に翻弄されつつも、自身の力でキャリアを切り開き、重要なポストに就いて活動を続けた軌跡を示しています。

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