アンドレ・カンプラ
アンドレ・カンプラ（André Campra, 1660年12月4日 エクス＝アン＝プロヴァンス生 - 1744年6月29日 ヴェルサイユ没）は、17世紀後半から18世紀前半にかけてフランスで活躍した作曲家、指揮者、そして聖職者でした。彼は、フランスバロック音楽を確立したジャン＝バティスト・リュリの時代が終わり、次の巨匠ジャン＝フィリップ・ラモーが登場する間の世代に位置づけられます。特に、フランス後期バロック音楽における宗教曲と歌劇の分野で、その功績は高く評価されています。彼の作曲した《死者のためのミサ曲》（Requiem）は、同時代の作曲家ジャン・ジルによる同じジャンルの作品と並んで、この時代の重要なレパートリーとされています。
カンプラは、南フランスのエクス＝アン＝プロヴァンスで生まれました。地元の聖ソヴール大聖堂で、宗教教育と音楽の基礎を学びました。若くして才能を認められ、1678年には司祭に叙階されました。その後、彼は各地の教会で音楽家としてのキャリアを積み上げていきます。トゥーロン、アルル、トゥールーズといった都市の大聖堂で楽長を務めた後、フランス音楽の中心地であるパリに進出しました。1694年から1700年にかけては、フランスで最も権威ある教会の一つであるパリのノートルダム大聖堂の楽長として活動しました。
教会音楽家として確固たる地位を築いていたカンプラですが、1697年頃から新たな分野に挑戦し始めます。それは、当時の流行であった劇音楽でした。聖職者が世俗的なオペラを作曲することは、必ずしも公には歓迎されませんでした。そのため、カンプラは当初、匿名で劇音楽の作曲に携わったとされています。しかし、その卓越した才能はすぐに明らかになり、彼はコンティ公の宮廷楽長に招かれるなど、世俗音楽の世界で頭角を現します。そして1730年には、フランス最大の歌劇場であるパリ・オペラ座（王立音楽アカデミー）の指揮者という、当時の音楽家にとって最高の地位の一つに就きました。
カンプラに大きな名声をもたらしたのは、1697年に発表されたオペラ＝バレ《優雅なヨーロッパ》（L'Europe galante）です。この作品は、複数の短い幕からなる「オペラ＝バレ」というジャンルの黎明期の傑作とされ、カンプラはこの作品によってコメディ＝バレ（舞踊劇）の天才として広く称賛されるようになりました。この成功を皮切りに、彼は多くの世俗音楽作品を生み出しました。オペラ＝バレとしては、《カンプラ ヴェネツィアの謝肉祭》（Le Carnaval de Venise, 1699年）や、特に人気の高かった《ヴェネツィアの祭り》（Les Fêtes vénitiennes, 1710年）などがあります。また、筋書きのある本格的なオペラである叙情悲劇の分野でも、《エジオーヌ》（Hésione, 1700年）、《タンクレディ》（Tancrède, 1702年）、《イドメネー》（Idoménée, 1712年）といった重要な作品を残しています。これらの大規模な舞台作品に加え、フランスで発展した独唱曲と器楽伴奏からなるカンタータも手掛け、全3巻からなるカンタータ集を出版しています。
フランス国王ルイ14世の死後も、カンプラはフランス音楽界の重鎮であり続けました。王立音楽アカデミーや、音楽活動が非常に活発だったヴェルサイユ宮廷礼拝堂などで要職を務めました。しかし、生涯を通じて聖職者であった彼は、1720年頃からは再び宗教的な活動に深く関わるようになります。晩年の彼は、作曲の多くの時間を宗教音楽に捧げました。この時期の主要な宗教曲には、詩篇に基づくモテットである《主が建てられるのでなければ》（Nisi Dominus, 1722年）や、彼の最も有名な宗教作品である《死者のためのミサ曲》（1723年以降に完成と推定）があります。また、ヴェルサイユ宮廷礼拝堂のために多数のモテットを作曲し、これらは1723年から1741年にかけてまとめられています。
アンドレ・カンプラは、長年にわたる教会音楽での経験に裏打ちされた厳格な様式と、オペラ作曲で培われた豊かな旋律と劇的な表現力を併せ持った作曲家でした。彼は、リュリが築いたフランス様式を踏まえつつ、当時影響力を増していたイタリア音楽の要素も巧みに取り入れ、独自の音楽語法を確立しました。その作品は、華麗で洗練された世俗音楽から、深い精神性を湛えた宗教音楽まで多岐にわたり、18世紀初頭のフランス音楽の多様性と発展を示すものとして、現在も重要な位置を占めています。
主要作品一覧（抜粋）
世俗音楽
オペラ＝バレ《優雅なヨーロッパ》（L'Europe galante, 1697年）
オペラ＝バレ《カンプラ ヴェネツィアの謝肉祭》（Le Carnaval de Venise, 1699年）
叙情悲劇《エジオーヌ》（Hésione, 1700年）
叙情悲劇《タンクレディ》（Tancrède, 1702年）
オペラ＝バレ《ヴェネツィアの祭り》（Les Fêtes vénitiennes, 1710年）
カンタータ集（全3巻、1708年、1714年、1728年)
宗教曲
《主が建てられるのでなければ》（Nisi Dominus, 1722年）
《死者のためのミサ曲》（Requiem, 1723年以降）
* 宮廷礼拝堂のためのモテット集（1723-1741年）
カンプラは、南フランスのエクス＝アン＝プロヴァンスで生まれました。地元の聖ソヴール大聖堂で、宗教教育と音楽の基礎を学びました。若くして才能を認められ、1678年には司祭に叙階されました。その後、彼は各地の教会で音楽家としてのキャリアを積み上げていきます。トゥーロン、アルル、トゥールーズといった都市の大聖堂で楽長を務めた後、フランス音楽の中心地であるパリに進出しました。1694年から1700年にかけては、フランスで最も権威ある教会の一つであるパリのノートルダム大聖堂の楽長として活動しました。
教会音楽家として確固たる地位を築いていたカンプラですが、1697年頃から新たな分野に挑戦し始めます。それは、当時の流行であった劇音楽でした。聖職者が世俗的なオペラを作曲することは、必ずしも公には歓迎されませんでした。そのため、カンプラは当初、匿名で劇音楽の作曲に携わったとされています。しかし、その卓越した才能はすぐに明らかになり、彼はコンティ公の宮廷楽長に招かれるなど、世俗音楽の世界で頭角を現します。そして1730年には、フランス最大の歌劇場であるパリ・オペラ座（王立音楽アカデミー）の指揮者という、当時の音楽家にとって最高の地位の一つに就きました。
カンプラに大きな名声をもたらしたのは、1697年に発表されたオペラ＝バレ《優雅なヨーロッパ》（L'Europe galante）です。この作品は、複数の短い幕からなる「オペラ＝バレ」というジャンルの黎明期の傑作とされ、カンプラはこの作品によってコメディ＝バレ（舞踊劇）の天才として広く称賛されるようになりました。この成功を皮切りに、彼は多くの世俗音楽作品を生み出しました。オペラ＝バレとしては、《カンプラ ヴェネツィアの謝肉祭》（Le Carnaval de Venise, 1699年）や、特に人気の高かった《ヴェネツィアの祭り》（Les Fêtes vénitiennes, 1710年）などがあります。また、筋書きのある本格的なオペラである叙情悲劇の分野でも、《エジオーヌ》（Hésione, 1700年）、《タンクレディ》（Tancrède, 1702年）、《イドメネー》（Idoménée, 1712年）といった重要な作品を残しています。これらの大規模な舞台作品に加え、フランスで発展した独唱曲と器楽伴奏からなるカンタータも手掛け、全3巻からなるカンタータ集を出版しています。
フランス国王ルイ14世の死後も、カンプラはフランス音楽界の重鎮であり続けました。王立音楽アカデミーや、音楽活動が非常に活発だったヴェルサイユ宮廷礼拝堂などで要職を務めました。しかし、生涯を通じて聖職者であった彼は、1720年頃からは再び宗教的な活動に深く関わるようになります。晩年の彼は、作曲の多くの時間を宗教音楽に捧げました。この時期の主要な宗教曲には、詩篇に基づくモテットである《主が建てられるのでなければ》（Nisi Dominus, 1722年）や、彼の最も有名な宗教作品である《死者のためのミサ曲》（1723年以降に完成と推定）があります。また、ヴェルサイユ宮廷礼拝堂のために多数のモテットを作曲し、これらは1723年から1741年にかけてまとめられています。
アンドレ・カンプラは、長年にわたる教会音楽での経験に裏打ちされた厳格な様式と、オペラ作曲で培われた豊かな旋律と劇的な表現力を併せ持った作曲家でした。彼は、リュリが築いたフランス様式を踏まえつつ、当時影響力を増していたイタリア音楽の要素も巧みに取り入れ、独自の音楽語法を確立しました。その作品は、華麗で洗練された世俗音楽から、深い精神性を湛えた宗教音楽まで多岐にわたり、18世紀初頭のフランス音楽の多様性と発展を示すものとして、現在も重要な位置を占めています。
主要作品一覧（抜粋）
世俗音楽
オペラ＝バレ《優雅なヨーロッパ》（L'Europe galante, 1697年）
オペラ＝バレ《カンプラ ヴェネツィアの謝肉祭》（Le Carnaval de Venise, 1699年）
叙情悲劇《エジオーヌ》（Hésione, 1700年）
叙情悲劇《タンクレディ》（Tancrède, 1702年）
オペラ＝バレ《ヴェネツィアの祭り》（Les Fêtes vénitiennes, 1710年）
カンタータ集（全3巻、1708年、1714年、1728年)
宗教曲
《主が建てられるのでなければ》（Nisi Dominus, 1722年）
《死者のためのミサ曲》（Requiem, 1723年以降）
* 宮廷礼拝堂のためのモテット集（1723-1741年）
もう一度検索
【記事の利用について】
タイトルと記事文章は、記事のあるページにリンクを張っていただければ、無料で利用できます。
※画像は、利用できませんのでご注意ください。
【リンクついて】
リンクフリーです。