ジャン＝マリー・ル・ペン

ジャン＝マリー・ル・ペン：フランス極右政治家の波乱の人生と思想

ジャン＝マリー・ル・ペン（1928年6月20日 - ）は、フランスを代表する政治家であり、極右政党国民戦線（現国民連合）の創設者として知られています。ブルターニュ地方の漁師の家庭に生まれ、パリ大学法学部卒業後、インドシナ戦争、アルジェリア戦争に従軍。戦後最年少で国民議会議員に当選するなど、若くして頭角を現しました。

その後、右翼政党の糾合を目指し、1972年に国民戦線を結成、党首に就任。反移民、妊娠中絶反対、治安強化、EU脱退、ユーロからのフラン回帰、国籍取得制限強化などを主な政策として掲げました。彼の政治姿勢は常に物議を醸し、しばしば過激な発言やスキャンダルで批判の的となりました。ナチスのユダヤ人大量虐殺や広島・長崎への原爆投下に関する発言は、特に強い非難を浴びました。

しかし、失業や移民問題、EU拡大への不安など、社会問題が深刻化する中で、ルペンは着実に支持を拡大していきました。1988年と1995年の大統領選挙では、それぞれ14%、15%の得票率を獲得。特に2002年の大統領選挙では、社会不安や治安問題を背景に急激な支持拡大を実現し、決選投票に進出しました。これは「ルペン・ショック」と呼ばれ、EU諸国に衝撃を与えました。決選投票ではジャック・シラクに大差で敗れましたが、その台頭はフランス社会に大きな影響を与えました。

世代別、職業別の投票動向分析では、若者層、失業者、肉体労働者層からの支持が特に高かったことが判明しています。経済的不安や社会的不満を抱える人々が、ルペンの強硬な政策に共鳴したと見られています。この選挙結果は、フランスにおける「コアビタシオン」（保革共存）への不満が、極左と極右両極端に集まったことを示唆するものでした。

ルペンの急激な支持拡大に対し、フランスのマスコミは保守、リベラルを問わず、一斉に批判を展開。「反ルペン」「反ファシズム」キャンペーンが展開され、大規模な反ルペンデモも発生しました。

湾岸戦争、コソボ紛争、イラク戦争など、アメリカ合衆国による覇権主義的戦争にも反対を表明。湾岸戦争時にはイラクを訪れ、サッダーム・フセイン大統領と会談、フランス人人質の解放に尽力しました。また、イラクの子供たちへの支援活動なども行っています。

2007年の大統領選挙では、サルコジ候補の移民対策が右翼支持層を浸食し、ルペンの得票率は伸び悩みました。その後、資金難から党本部ビルの売却に追い込まれるなど、国民戦線は苦境に立たされます。2010年には党首を辞任し、名誉党首に就任。娘のマリーヌ・ル・ペンが後継者となりました。

しかし、父娘の確執は深まり、2015年に国民戦線から除名。その後は新党を結成するも、反ユダヤ主義発言で訴追されるなど、政治活動は困難を極めました。

ルペンは、日本に対しては好意的な姿勢を示し、1980年代には訪日、中曽根康弘首相と会談。靖国神社参拝もしています。日本を「美しい国」と評し、祖国防衛のために命を落とした人々への敬意を表明するなど、親日的な言動も見られました。

極右、差別主義者と評される一方、「ファシスト」「ネオナチ」ではないという見解もあります。彼の演説力は高く評価されており、その弁舌は芸術の域に達しているとも評されています。2024年4月には家族の要請により法的保護下に置かれたことが報じられました。ルペンの生涯と政治活動は、フランス政治史のみならず、世界政治史においても特異な存在として記録されています。

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