ジュウモンジシダ

ジュウモンジシダ（Polystichum tripteron）

ジュウモンジシダは、オシダ科イノデ属に分類されるシダ植物で、特に山間部に広がる森林でよく見られる小型のシダです。その名の通り、葉の形状が十字に見えることが特徴で、実際には葉身が三方向に伸び、全体が単羽状の複葉となることでこの独特の形を作り出しています。

特徴

ジュウモンジシダは、夏緑性でありながら、暖暖地では冬でも葉を残すことがあります。茎は短く、ほぼ直立しており、表面には鱗片が見受けられます。葉柄は通常15〜35cmの長さで、たやや斜めに立っており、薄い鱗片が散在しています。上から見るとロゼット状の形状を形成します。葉身は20〜50cmの長さで、特に主軸部分は最も長く、全体は三角形に近い長楕円形をしています。

葉の裂片は細長い三角形で、長さは3〜5cm程度。基部は先端側に耳状にとがり、先へ向かうにつれて次第に小さくなり、鋸状の細長い裂片になります。また、裂片の基部からはほぼ直角に一対の軸が伸び、それぞれにさらに小さな羽片がつくことがあります。この特徴が全体の葉が十字形に見える所以で、これがジュウモンジシダの和名の由来ともなっています。幼い植物は全体が単羽状複葉の状態ですが、成長するにつれて見た目が変化します。

葉の色はやや厚みのある草質で、黄緑色をしています。葉の裏側や葉柄にはまばらに鱗片が見られることがあります。胞子嚢は一般に葉の裏側に分散しており、中肋の両側に列をなして配置されていることもあります。

生育環境

このシダは森林の中、特に渓流周辺の平坦な地面によく見られることが特徴です。湿度の高い環境を好むため、自然の保護された気候の中で生育する様子が観察されています。

分布

日本国内では、北海道から九州までの広範囲に生息しており、localな地域でもよく見かけるシダです。国外には朝鮮、中国東部やロシアの一部地域にも分布しています。

変異

ジュウモンジシダにはいくつかの変異があり、一般的に知られる形状にならないものも存在します。特に、単羽状複葉のまま育つヒトツバジュウモンジシダ（var. simplicissimum）は、特に変種として扱われないことが多いです。また、裂片の切れ込みが深いオオシュモクシダ（f. subbipinnatum）や、最下の羽片がもう一対出るトリアシシュモクシダ（f. pedatiforme）もあります。

近似種

ジュウモンジシダは、同属の他のシダ植物と比べて非常に識別が容易です。特に、大隅半島南部や琉球列島には関連するタイワンジュウモンジシダ（P. hancockii）が存在しますが、こちらは葉のサイズや質感が異なるため、見た目がかなり異なります。

このように、ジュウモンジシダは特有な形状と環境条件に適応した成長スタイルを持つシダ植物であり、自然界における重要な役割を果たしています。

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