ジュゼッペ・ディ・ステファーノ

ジュゼッペ・ディ・ステファノ（Giuseppe Di Stefano, 1921年7月24日 - 2008年3月3日）は、イタリアを代表するテノール歌手の一人として、その名をオペラ史に刻んでいます。1940年代から1970年代前半にかけて、その輝かしい才能を開花させました。特に、ソプラノ歌手マリア・カラスとの親密な関係は、音楽界内外で大きな注目を集めました。

生い立ちと音楽への目覚め

ディ・ステファノは、シチリア島カターニア近郊のモッタ・サンタナスタージアという小さな村で生まれました。両親は貧しい靴の修理屋と仕立て屋であり、決して裕福な家庭環境ではありませんでした。彼は一人息子として育てられ、当初は司祭を目指してミラノのイエズス会修道院で学びました。しかし、そこで彼の天賦の美声が見出され、ミラノのドゥオーモ合唱団の一員となります。1938年には、ミラノとフィレンツェで開催された歌唱コンテストで優勝し、カフェやレストラン、映画館などで歌う機会を得るようになりました。この頃はニーノ・フローリオという名前で、オペラのアリアからカンツォーネ、流行歌まで幅広いジャンルの歌を歌いこなしていました。

第二次世界大戦とスイスへの逃避

1940年からは、バリトン歌手ルイージ・モンテサントに師事し、声楽の研鑽を積みます。しかし、翌1941年に入隊。第二次世界大戦の激化と1943年のドイツ軍によるイタリア北部占領に伴い、スイスへと逃れました。スイスでは難民キャンプでの生活を余儀なくされますが、その歌唱力が認められ、1944年からはスイス国内のイタリア語放送局ラジオ・スイス・ロマンドに出演するようになります。また、EMI社との契約も結び、いくつかの録音を残しました。

オペラ歌手としての成功

1945年にイタリアへ帰国後、オペラ歌手としてのキャリアを本格的にスタートさせます。1947年にはミラノ・スカラ座でマスネの『マノン』のデ・グリュー役でデビュー。翌年にはニューヨーク・メトロポリタン歌劇場でヴェルディの『リゴレット』の公爵役を演じ、国際的な評価を確立しました。

マリア・カラスとの共演

ディ・ステファノとマリア・カラスの一連の共演は、1951年9月のブラジル・サンパウロ市でのヴェルディ『椿姫』から始まりました。スカラ座でのカラスとの共演では、1954年のカラヤン指揮によるドニゼッティ『ランメルモールのルチア』、ジュリーニ指揮、ルキノ・ヴィスコンティ演出の『椿姫』などが大きな反響を呼びました。

その後のキャリア

1955年頃から、ディ・ステファノはより重い声質の役柄にも挑戦するようになります。しかし、元々「開いた」発声で喉に負担がかかっていたこと、不摂生な生活、公演キャンセルの多発などから、次第に「使いにくいテノール」という評価を受けるようになります。1960年代には、負担の少ないリサイタルを中心に活動するようになりました。

晩年

1973年には、マリア・カラスの最後の世界ツアーに同行し、日本を含む各国を訪問しました。1992年6月、ローマ・カラカラ大浴場跡での野外オペラ『トゥーランドット』に皇帝役で出演したのを最後に、舞台から完全に引退しました。2004年12月、ケニアの別荘で強盗に襲撃され、意識不明の状態となります。その後、ミラノの自宅で療養していましたが、2008年3月3日に86歳で亡くなりました。

舞台上での華やかな容姿と豊かな表現力から、観客からは「ピッポ」の愛称で親しまれました。声楽的には退潮期にあった1960年代でも、彼のライブ録音からは聴衆を熱狂させていた様子が窺えます。ジュゼッペ・ディ・ステファノは、その輝かしい歌声とドラマティックな人生で、オペラ史に永遠に名を残すことでしょう。

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