ジュリアス・アクセルロッド

ジュリアス・アクセルロッド：神経伝達物質と生体リズムの解明

ジュリアス・アクセルロッド（1912年5月30日-2004年12月29日）は、20世紀を代表するアメリカの生化学者です。1970年、カテコールアミン系神経伝達物質に関する画期的な研究により、ベルンハルト・カッツ、ウルフ・フォン・オイラーとともにノーベル生理学・医学賞を受賞しました。彼の研究は、神経伝達物質の放出と再取り込みメカニズムの解明に大きく貢献し、現代神経科学の基礎を築きました。

波乱万丈の青年時代と研究への道

ニューヨーク市でポーランド系ユダヤ人の移民の子として生まれたアクセルロッドは、ニューヨーク市立大学シティカレッジで生物学の学士号を取得後、医師を志しました。しかし、医科大学受験は全て不合格。その後、ニューヨーク大学の実験技術者やニューヨーク市衛生局の職員として働きながら、夜学で科学修士号を取得するという努力を続けました。衛生局勤務中には、実験事故で左眼を負傷するという不幸な出来事も経験しています。

鎮痛剤研究から神経伝達物質研究へ

1946年、アクセルロッドはゴールドウォーター記念病院でバーナード・ブローディの下、研究者としてのキャリアをスタートさせます。当初は鎮痛剤の作用機序に関する研究に従事し、当時問題となっていたアセトアニリドによるメトヘモグロビン血症の原因究明に貢献しました。この研究は、アセトアミノフェンの安全性を示唆する重要な成果となりました。

1949年からは、国立心臓研究所（NIH）で研究活動を開始。カフェインの作用機構の研究から神経伝達物質、特にアドレナリンとノルアドレナリンに関心を抱くようになりました。コデイン、モルヒネ、メタンフェタミン、エフェドリンなど様々な薬物の研究も手がけ、LSDに関する初期研究にも関与しました。博士号取得のためジョージ・ワシントン大学大学院に籍を置き、1955年にNIHに戻ると、彼の最も重要な研究であるカテコールアミンに関する研究に本格的に取り組み始めました。

カテコールアミンの放出と再取り込み

アクセルロッドの研究は、神経伝達物質がシナプスから放出後、単に失活するのではなく、シナプス前膜に再取り込みされ、再利用されるという画期的な発見をもたらしました。アドレナリンが不活性型で組織に貯蔵され、必要に応じて放出されるという理論も打ち立てました。この発見は、後の抗うつ薬であるセロトニン選択的再取り込み阻害薬（SSRI）の開発につながる重要な基盤となりました。また、カテコールアミンの分解に関与する酵素、カテコール-O-メチルトランスフェラーゼの発見・研究にも貢献しています。これらの功績により、彼はノーベル賞を受賞することになるのです。

松果体と生体リズム

その後、アクセルロッドの研究は松果体に焦点が移ります。彼は共同研究者と共に、メラトニンが松果体を生体時計として機能させ、中枢神経系に大きな影響を与えることを解明しました。メラトニンがセロトニンから生成され、松果体がセロトニンの分泌を制御することでサーカディアンリズムを調整する仕組みを明らかにしました。

科学者としての責任と社会貢献

1970年のノーベル賞受賞後、アクセルロッドは科学政策問題にも積極的に関わりました。ニクソン大統領によるがん治療に特化した新機関設立に反対する嘆願書をまとめるなど、科学者としての社会貢献にも尽力しました。また、ソ連における科学者の投獄にも抗議する声明に署名するなど、高い倫理観を持ち続けていました。NIHで長年研究を続け、1984年に退職しました。

まとめ

ジュリアス・アクセルロッドの研究は、神経科学、薬理学、そして生体リズム研究に多大な貢献を果たしました。彼の業績は、現代医学の進歩に大きな影響を与え続けており、彼の名前は、科学史に燦然と輝く偉大な科学者として記憶されています。彼の功績は、単なる研究成果にとどまらず、科学者としての倫理観と社会への責任感の高さを示すものと言えるでしょう。彼の生涯は、科学への情熱と社会への貢献を両立させた模範として、後世の研究者たちに長く語り継がれるに違いありません。

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