ジョイ・ボートン

クリスティーナ・ジョイアンス・ボートン（Christina Joyance Boughton, 1913年6月14日 - 1963年）は、20世紀中頃にイングランドで活躍した傑出したオーボエ奏者です。通称「ジョイ」として親しまれました。

彼女は1913年6月14日、芸術家一家の元に生を受けました。父は高名な作曲家であるラトランド・ボートン、母は画家のクリスティーナ・ウォルシェです。幼い頃から音楽と芸術に囲まれた環境で育ち、やがてオーボエの才能を開花させます。

オーボエの道を志したジョイは、当時既に国際的に著名であったオーボエ奏者、レオン・グーセンスに師事し、高度な演奏技術と音楽性を身につけました。その後、1929年から1937年までの8年間、ロンドンの権威ある教育機関、王立音楽大学（Royal College of Music）で専門的な音楽教育を受けました。彼女の学業は優秀であり、後年には母校である王立音楽大学でオーボエの教授として教鞭を執り、後進の指導にもあたっています。その教育者としてのキャリアは残念ながら晩年の短い期間に限られましたが、その影響は計り知れません。

演奏家としてのジョイ・ボートンは、同時代の主要な作曲家たちとの密接な関係を通じて、20世紀のイギリス音楽に重要な足跡を残しました。特に、ベンジャミン・ブリテンとの関係は特筆に値します。ブリテンは彼女の芸術性と技術を高く評価しており、1951年にはオーボエ独奏のための革新的な作品「オウィディウスによる6つのメタモルフォーゼ」作品49を彼女に献呈しました。ジョイはその年のオールドバラ音楽祭でこの作品の世界初演を成功させ、オーボエの独奏レパートリーに新たな傑作を加えました。また、彼女はブリテンがイギリス・オペラ・グループを設立する際にも協力し、その活動を支援するなど、演奏家としてだけでなく、イギリス音楽界の発展にも貢献しています。

室内楽の分野でも積極的に活動しました。フルート奏者のジョン・フランシス、ピアニストのミリセント・シルヴァーと共に「シルヴァン・トリオ」を結成し、多くの演奏会を行いました。このトリオは、フルート、オーボエ、ピアノという編成のための既存の作品はもとより、現代作品の紹介にも力を入れたと考えられます。

家族との音楽的な繋がりも深く、特に父ラトランド・ボートンは、娘の才能のためにオーボエ協奏曲を作曲しました。ジョイはこの父娘のための作品を、1937年にオックスフォードで行われた演奏会で、ボイド・ニール弦楽オーケストラと共に世界初演しています。これは、彼女のキャリアにおける重要な節目の一つであり、父娘の音楽的な絆を示す出来事でした。

私生活では、劇場興行主であったクリストファー・イードと結婚し、ロビンとペニーという二人の子どもを育てました。公私ともに充実した人生を送っていた彼女ですが、残念ながら1963年に急逝しました。50歳の誕生日を迎えるわずか数ヶ月前の早すぎる死でした。

ジョイ・ボートンの功績を称え、彼女の死後間もない1963年4月には、かつて学び、教えた王立音楽大学で追悼演奏会が開催されました。短い生涯ではありましたが、クリスティーナ・ジョイアンス・ボートンは、卓越したオーボエの技術、同時代の偉大な作曲家たちとの共同作業、そして教育者としての活動を通じて、20世紀イギリス音楽史において重要な位置を占める演奏家の一人として記憶されています。彼女が初演した作品や、室内楽における貢献は、今もなお多くの音楽愛好家に称賛されています。

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