ラトランド・ボートン

ラトランド・ボートン（Rutland Boughton, 1878年1月23日 - 1960年1月25日）は、20世紀初頭のイングランドで活動した作曲家です。オペラや合唱曲の分野で特に知られ、ワーグナーの理念に影響を受けた『楽劇』を数多く作曲しました。彼の作品は、3曲の交響曲、複数の協奏曲、パートソング、歌曲、室内楽曲など多岐にわたります。中でも広く認識されているのがオペラ『不滅の時間』であり、コヴェントリーの降誕劇に材を取った1915年の『ベスレヘム Bethlehem』は、伝統的なクリスマス・キャロルの編曲を含む合唱版が世界中で愛されています。

ボートンはバッキンガムシャー州アリスバーリーの食料雑貨店主の息子として生まれました。正規の音楽教育をすぐに受けられる環境ではありませんでしたが、幼い頃から音楽の才能を発揮し、10代後半でロンドンに出て音楽業界に関わるようになります。ロスチャイルド家からの経済的支援によりロンドンの王立音楽大学で学びますが、資金が尽きたため中退し、劇場オーケストラや歌手の伴奏などで生計を立てました。1905年、交響曲第1番『Oliver Cromwell』を完成させた後、グランヴィル・バントックの招きを受けてバーミンガム・ミッドランド音楽院（現在のバーミンガム音楽院）の教員となります。

1905年から1911年にかけてのバーミンガム時代、ボートンは教育者・指揮者として評価を高めると同時に、社会主義思想に傾倒していきます。ジョン・ラスキン、ウィリアム・モリス、エドワード・カーペンター、そして後に生涯にわたる交流を持つことになるジョージ・バーナード・ショーらの著作から影響を受けました。この頃、後にグラストンベリーでの活動を共にし、芸術的なパートナーとなる美術学生クリスティーナ・ウォルシェとも出会います。

若い頃からのキリストの生涯に関する大規模な劇の構想を経て、ボートンはワーグナーの総合芸術論と自身のキリスト教解釈に基づき、アーサー王伝説を題材とした『合唱劇』の創造へと向かいます。詩人のレジナルド・バックレーと共に、ワーグナーのバイロイト音楽祭をモデルに、イングランドに国民的な音楽祭の共同体を築くことを目指しました。当初レッチワースが候補地でしたが、最終的にアーサー王伝説ゆかりの地とされるサマセット州グラストンベリーを選びます。1911年にバーミンガムを離れてグラストンベリーに移住し、ウォルシェ、バックレーと共に国内初の夏の定期音楽集会を立ち上げます。

第一次世界大戦開戦により計画は変更を余儀なくされましたが、ボートンは活動を続け、1914年から1926年までグラストンベリー・フェスティバルが開催されました。グランドピアノ伴奏での上演や地元の集会場の活用など制約はありましたが、350以上の舞台作品、100の室内楽演奏会などが上演・開催され、イングランドにおける前例のない規模の音楽祭として成功を収めました。

グラストンベリーで初演されたオペラ『不滅の時間』は、ウィリアム・シャープのケルト神話に基づく戯曲を基にしたボートンの最高傑作とされ、特に成功を収めました。グラストンベリーでの評判を受け、バーミンガムでの上演を経て、ロンドンでのロングラン公演が実現します。600回以上の連続上演という記録を打ち立て、若いグウェン・フランコン＝デイヴィスの名演技と共に観客を魅了しました。この他にも、トーマス・ハーディ原作の『The Queen of Cornwall』（1924年）やエウリピデス原作の『Alkestis』（1922年、1924年にコヴェント・ガーデンでも上演）などが高い評価を得ています。

しかし、1926年のゼネラル・ストライキへの共感から、『ベスレヘム』の演出に社会主義的な要素を取り入れたことが、支援者や演奏家との対立を生み、グラストンベリー・フェスティバルの終焉を招きます。この出来事以降、ボートンの政治思想が彼の音楽の評価に影を落とすことになります。

1927年、ボートンはグロスタシャー州キルコットに移り住み、1960年に亡くなるまでそこで過ごしました。この時期にも、アーサー王シリーズの最後の作品や、近年再評価が進む交響曲第2番・第3番、オーボエ協奏曲など、多くの優れた作品を生み出しました。社会主義への傾倒のため、その名声は晩年まで正当に評価されませんでしたが、死後、特に1978年に設立されたラトランド・ボートン・ミュージック・トラストの活動により、作品の録音や演奏が進み、再評価の機運が高まっています。生前のエドワード・エルガーやジョージ・バーナード・ショーといった著名な音楽家や識者たちも、彼の作品の質や独創性を高く評価する言葉を残しています。ボートンの作品手稿譜の大半は現在、大英図書館に保管されています。

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