ジョイ・ライダー

ジョイ・ライダー (Joy Ryder)

『ジョイ・ライダー』は、ジャズ界の巨匠サクソフォニスト、ウェイン・ショーターが1988年に発表したスタジオ・アルバムです。この作品は、前年のアルバム『ファントム・ナビゲーター』（1987年）の流れを汲み、当時の最新テクノロジーを積極的に取り入れたサウンドプロダクションを追求した時期の代表作として位置づけられています。

アルバムの特徴と制作背景

本作の最も顕著な特徴は、ショーターがそれまでのキャリアで培ってきたアコースティックなジャズサウンドに、テクノロジーを融合させた新しい音作りを試みている点です。シンセサイザーやプログラミングされたサウンドが導入され、従来のジャズアルバムとは一線を画すコンテンポラリーな響きを持っています。これは、ジャズミュージシャンがエレクトロニクスやモダンなサウンドを取り入れ始めた80年代後半の潮流を反映したものと言えるでしょう。

参加ミュージシャン

アルバムのレコーディングには、ウェイン・ショーター（サクソフォーン）を核として、以下のような多様なミュージシャンが参加しました。

主要メンバー
ウェイン・ショーター - サクソフォーン
パトリース・ラッシェン - キーボード
ネイザン・イースト - エレクトリックベース
テリ・リン・キャリントン - ドラムス

アディショナル・ミュージシャン
ジェリ・アレン - ピアノ、シンセサイザー (#1, #2, #3, #5, #7)
フランク・コロン - パーカッション (#2, #5)
ハービー・ハンコック - シンセサイザー (#4, #7)
ダリル・ジョーンズ - エレクトリックベース (#4, #6)
* ダイアン・リーヴス - ボーカル (#7)

特に、後にローリング・ストーンズのサポートメンバーとして名を馳せるベーシスト、ダリル・ジョーンズが「アンセム」と「デアデビル」の2曲に参加していること、そして、前年にブルーノート・レコードからメジャーデビューを果たしたばかりの新鋭ボーカリスト、ダイアン・リーヴスが「サムプレイス・コールド"ホエア"」にゲストとして招かれ、歌唱だけでなく作詞にも名を連ねている点が注目されます。

収録曲

本作には以下の全7曲が収録されています。全ての楽曲はウェイン・ショーターによって作曲されました。7曲目「サムプレイス・コールド"ホエア"」は、ショーター作曲に加えて、ダイアン・リーヴスとリチャード・A・カミングスが作詞を担当しています。

1. ジョイ・ライダー - "Joy Ryder" (6:43)
2. キャセイ - "Cathay" (6:37)
3. オーバー・シャドウ・ヒル・ウェイ - "Over Shadow Hill Way" (6:13)
4. アンセム - "Anthem" (4:24)
5. コーズウェイズ - "Causeways" (8:22)
6. デアデビル - "Daredevil" (6:30)
7. サムプレイス・コールド"ホエア" - "Someplace Called 'Where'" (5:19)

商業的成績と批評

リリース後、アメリカの音楽チャートにおいて、『ジョイ・ライダー』はビルボード誌のコンテンポラリー・ジャズ・アルバム・チャートで最高24位にランクインしました。

音楽評論家の間では、本作に対する評価は必ずしも一致しませんでした。例えば、音楽レビューサイト「オールミュージック」に寄稿した評論家スコット・ヤナウは、このアルバムに5点満点中2点という厳しい評価を下しています。ヤナウは彼のレビューの中で、特に作曲面について言及し、「1960年代のウェイン・ショーター作品に見られたような斬新さや独特の個性が、このアルバムの楽曲には不足している」と指摘しました。また、演奏についても、「ショーターのサクソフォーンが生み出す音色そのものは変わらず魅力的であるものの、その即興演奏は時として焦点が定まらないように聞こえる」と述べるなど、手厳しい評価が聞かれました。

後年の演奏

『ジョイ・ライダー』に収録されている楽曲の一部は、アルバムリリースから年月を経て、ショーターのその後の活動の中で異なるアレンジで再演されています。具体的には、2005年にリリースされたウェイン・ショーター・カルテット名義のライブ・アルバム『ビヨンド・ザ・サウンド・バリアー』に、本作のタイトル曲「ジョイ・ライダー」と「オーバー・シャドウ・ヒル・ウェイ」が、アコースティックな編成での演奏で収められています。これは、発表当時のテクノロジーを駆使したサウンドとは対照的な、生楽器の響きを重視した解釈であり、楽曲の異なる側面を楽しむことができます。

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