ジョン・オーブリー

ジョン・オーブリー：イングランドの好古家、知られざる生涯と『名士小伝』

ジョン・オーブリー (1626年 - 1697年) は、17世紀イングランドを代表する好古家であり、作家です。裕福な家庭に生まれながらも、内戦や経済的な困難に直面しながらも、多様な人物との交流を通して独自の研究を続けました。今日、彼の名は主に、歴史上の人物たちの短い伝記を集めた『名士小伝』(Brief Lives) の著者として知られていますが、ストーンヘンジに関する研究や、幅広い分野にわたる膨大な記録など、その業績は多岐に渡ります。

生い立ちと教育

オーブリーは、ウィルトシャー州で裕福な家庭に生まれました。幼少期は家庭教師のもとで教育を受け、独学で幾何学を学ぶなど、自学自習の姿勢を早くから示していました。マームズベリーのグラマースクールを経て、オックスフォード大学トリニティ・カレッジに入学するも、イングランド内戦により学業は中断されます。しかし、このオックスフォード時代から好古家としての活動を開始し、多様な知識を吸収していきました。その後、ミドル・テンプルの学生となり、法律の勉強を始める傍ら、読書や収集、友人との交流を通して、知的探究を続けました。

好古家としての活動と人脈

オーブリーは、社会的地位や職業を問わず、幅広い人々と交流しました。作家、科学者、政治家、貴族から、商人、職人まで、様々な人々との出会いを通して得た情報は、彼の研究に大きな影響を与えました。彼は優れた記憶力を持っていたわけではなく、むしろメモを取りながら、観察や議論を記録する習慣がありました。この習慣は、彼の主要な業績である『名士小伝』の土台となりました。

オーブリーは、エイヴバリーの巨石遺跡の研究でも知られています。1649年には、この遺跡を「発見」し、後年、その研究成果をまとめた『Monumenta Britannica』で詳細な地図と考察を発表しました。1663年には、チャールズ2世にエイヴバリーを案内するなど、王室とも関わりを持つようになりました。

『名士小伝』と独特の執筆方法

オーブリーの『名士小伝』は、未完成のまま残された私的な手稿ですが、後の伝記文学に大きな影響を与えました。彼は、収集した情報を検証する作業を後世に委ね、膨大な情報を断片的に記録していきました。その書き方は独特で、日付と内容をダッシュで結び、省略記号を多用するなど、体系的なものではありませんでした。しかし、その中には、彼が実際に現地を訪れて調査した痕跡や、噂の真偽を確かめようとした努力が随所に見られます。

オーブリーは、自身のメモを「Schediasmata（出来心で即席で書いた断片）」と呼んでいました。これは、彼の執筆方法が、体系的な研究よりも、ひらめきや直感に導かれる即興的なものであったことを示唆しています。彼は情報を得るとそれを次々に書き加えていくため、日付と内容をダッシュで結び、省略記号を多用する形式で書いていったのです。ノートの余白には注を自分で書いており、特にラテン語の 'quaere'（疑義あり）と書いていることが多い。その後に 'go and find out'（行って見つけ出す）と書いてあることが多い。実際に行って確かめた部分には、'I have seen it' と満足気に書いていることもあるのです。

晩年と遺産

晩年は経済的な困窮に苦しみながらも、オーブリーは執筆活動を続けました。未完成のまま終わった著作も多いですが、『ウィルトシャーの歴史』の一部や、唯一の完成作品である『雑纂』などを残しています。1697年、旅先で亡くなりました。

オーブリーは、体系的な研究者というよりは、好奇心旺盛な探求者でした。彼の業績は、未完成な部分も多く、正確性に欠ける点も指摘されていますが、その一方で、彼の人間的な魅力と、多様な人々との交流、そして、時代を超えて人々の関心を集める膨大な記録は、今もなお、私たちの想像力を掻き立てます。彼の残した膨大な記録は、現代においても、歴史研究や文化研究の貴重な資料として活用されています。そして、『名士小伝』は、今日でも多くの読者を魅了し続けています。

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