ジョン・コリア (画家)

ジョン・メイラー・コリア（1850-1934）は、イギリスを代表するラファエル前派の画家であり、卓越した肖像画家として知られています。ジョン・コリア、ジョン・コリエといった表記も用いられる彼の作品は、鮮やかな色彩と写実的な描写、そしてモデルの人物像を深く捉えた表現で高く評価されています。

華麗なるモデルたちの肖像

コリアの画業における最大の特色は、多様な分野の著名人をモデルに描いた数々の肖像画です。そのモデルは、王族、政治家、宗教家、学者、芸術家、軍人、科学者、さらにはインドのマハラジャに至るまで、実に多岐に渡ります。

例えば、ジョージ5世（当時コーンウォール公・ヨーク公）の肖像画は、王自身の依頼によるもので、コリアの高い名声を物語っています。他にも、複数の伯爵や大法官、首席裁判官、庶民院議長といった要職に就いた人物たちの肖像画が数多く存在します。

芸術界からは、ラドヤード・キップリングやローレンス・アルマ＝タデマといった著名な作家や画家、さらに名優エレン・テリーや映画監督キャロル・リードの父であるハーバート・ビーボン・トゥリーなどもモデルとなりました。

科学界からは、チャールズ・ダーウィンやジェームズ・プレスコット・ジュールといった巨人たちが、そしてコリアの義理の父であるトマス・ヘンリー・ハクスリーもモデルとして名を連ねています。

コリア自身の詳細な記録によると、彼の描いた肖像画には、モデルの氏名、制作日、料金、さらには展示に関する論争の詳細などが克明に記録されています。この貴重な記録は、ナショナル・ポートレート・ギャラリーのHeinz Archive & Libraryで閲覧可能です。

名家の出身と波乱の私生活

コリアは、社会的地位の高い一族の出身でした。彼の祖父は庶民院議員を務めた商人であり、父は庶民院議員、司法長官を歴任した著名な人物でした。兄もまた、内閣次官補などを務めた政治家でした。

コリア自身の私生活も、芸術家としての活動と同様にドラマティックでした。彼は、著名な科学者トマス・ハクスリーの娘であるマリアンと結婚しましたが、彼女は娘を出産後に産後鬱病を患い、パリで亡くなりました。その後、コリアはマリアンの妹エセルと再婚しています。亡妻の姉妹との結婚は当時のイギリスでは違法であったため、ノルウェーで結婚式を挙げました。

コリアの娘ジョイスは肖像細密画家となり、息子ローレンスはノルウェー大使を務めました。

死後の評価と作品群

コリアは1934年に亡くなりました。死後、彼の作品は様々な美術評論家によって評価されています。その評価は、生真面目な作風を指摘する声から、鮮やかな色彩と写実的な描写を称賛する声まで多岐に渡ります。

しかし、共通しているのは、彼の肖像画が単なる人物描写を超えて、モデルの人物像を深く捉えた作品であるということです。「問題絵画」と呼ばれるジャンルに属する作品も多く、日常生活の隠された情景を巧みに描き出しています。

現在、彼の作品はナショナル・ポートレート・ギャラリー、テート・ギャラリー、ウフィツィ美術館など、世界中の主要な美術館に収蔵されています。

画家としての活動以外にも

コリアは、画家としての活動以外にも『A Primer of Art（1882年）』『A Manual of Oil Painting（1886年）』『The Art of Portrait Painting（1905年）』といった美術に関する著作も残しています。これらの著作は、彼の芸術に対する深い理解と洞察を示すものです。彼の多才ぶりは、画家としての才能のみならず、優れた作家としての資質も持ち合わせていたことを示しています。

コリアは、優れた肖像画家としてだけでなく、豊かな人生経験と名家の出自、そして多才な才能を持つ人物として、美術史に名を残す存在です。彼の作品は、時代を超えて人々を魅了し続け、その芸術性は今後も高く評価されることでしょう。

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