ジョン・ノウルズ・ペイン

（1839年 1月9日 - 1906年 4月25日）

アメリカ合衆国の作曲家であり、教育者。初期のアメリカ音楽界において重要な役割を果たしました。管弦楽曲の分野で国内に名声をもたらした初めての作曲家の一人として知られ、特に教育者としてはハーヴァード大学に音楽学部を創設し、アメリカで最初の音楽学教授に就任した人物として歴史に名を刻んでいます。

生涯

ペインはメイン州ポートランドで楽器商の息子として生まれました。幼い頃から父親の店で演奏を披露しており、音楽に親しんでいました。その後、ドイツからの亡命音楽家ヘルマン・コチュマーに鍵盤楽器演奏と作曲の正式な指導を受け、音楽家としての基礎を築きました。彼はピアノ教師として活動を開始し、1857年には初めての公開演奏会を行いました。

1858年、作曲の専門的な研鑽を積むためヨーロッパへの留学を決意します。地元有志の資金援助を受け、同年中にドイツのベルリンへ渡り、オルガン演奏と作曲を学びました。ベルリンでは、後に著名なベートーヴェン研究家となる音楽学者アレクサンダー・フィーロック・セイヤーと同じ下宿で生活を共にする経験もしました。

帰国後、ペインは活動の拠点をマサチューセッツ州ボストンに定めました。ここで作曲した《ミサ曲ニ長調》が高い評価を受け、彼の名前は一躍知られるようになります。1873年には、ハーヴァード大学に新設される音楽学部の教員として招聘され、同時にニューイングランド音楽院でもピアノ、オルガン、和声学、対位法といった科目を指導しました。これにより、彼は作曲活動と教育活動という二つの道を終生歩むこととなります。特にハーヴァード大学に着任してからの時期は作曲家として最も実り多く、2曲の交響曲や、ソポクレスのギリシャ語悲劇『僭主オイディプス』のための付随音楽などを生み出しました。また、ピアニストとしても活動し、当時のアメリカではまだあまり知られていなかったショパンやシューマンの作品を積極的に紹介しました。

作風と評価

ペインは「ボストン楽派」と呼ばれるアメリカの作曲家グループの創始者の一人に数えられます。作曲様式としては、概してベートーヴェン中期の音楽語法や形式を規範としていました。《交響曲第1番ハ短調》は、ブラームスの第1交響曲とほぼ同時期に完成され、ベートーヴェンの作品から楽句を引用することで、その偉大な先達への敬意を示しています。一方、《交響曲第2番イ長調》にはドイツ語で「春に」という副題が付けられ、ベルリオーズやヨアヒム・ラフの影響を受けたアメリカ初の試みとされる標題交響曲となっています。

彼の作品には、スコットランドやアイルランドの民族舞曲のリズムが取り入れられているものも見られますが、アメリカ独自の民謡に見られる民族音階への関心はほとんど示しませんでした。オーケストレーションの技術は、とりわけ独創的あるいは色彩的というわけではないものの、堅実で力強い表現に富んでいます。このため、生前から今日に至るまで、彼の作品の中では管弦楽曲や管弦楽伴奏付きの合唱曲が特に注目されています。

一方、ピアノ曲や《ヴァイオリン・ソナタロ短調》などの室内楽曲も残されていますが、これらは同時代のヨーロッパの作曲家と比較すると独創性に欠け、ウィーン古典派からフンメル、ジョン・フィールドといった作曲家の影響を強く受けていると評価されています。

ペインは熱烈なリンカン大統領の支持者であり、1865年に大統領が暗殺された際には、管弦楽による追悼曲を構想しましたが、最終的にはピアノのための葬送行進曲を完成させるにとどまりました。

作曲家としては比較的保守的な傾向がありましたが、同時代のドイツ音楽の動向には常に注意を払い、リヒャルト・シュトラウスの作品にも精通していました。彼の門下からは、アーサー・フット、ジョン・オールデン・カーペンター、フレデリック・コンヴァースといった多くの作曲家が育ち、またボストンの女性作曲家の先駆者であるエイミー・ビーチの初期の作品にも助言を与えるなど、教育者としても多大な影響力を持ちました。

1906年にマサチューセッツ州ケンブリッジで急逝しました。彼の死後、未亡人によってハーヴァード大学に「ジョン・ノウルズ・ペイン研究旅行奨学金」が設立され、後進の育成に貢献しています。

主要作品

ペインの作品は、同世代のアメリカ人作曲家と比較して、近年まで楽譜の復刻が進んでいませんでした。

歌劇
アザラ (Azara)

管弦楽伴奏つき合唱曲
ミサ曲ニ長調 (作品番号なし)
オラトリオ《聖ピーター》作品20

管弦楽曲
交響曲第1番ハ短調作品23
演奏会用序曲《お気に召すまま》作品28
交響詩《テンペスト》作品31
交響曲第2番イ長調「春に」作品34
ギリシャ語劇『僭主エディプス』のための前奏曲作品35

室内楽曲
ヴァイオリン・ソナタロ短調作品24
チェロとピアノのための《ロマンツァとフモレスケ》作品30
ピアノ三重奏のための《ラルゲットとフモレスケ》作品32

オルガン曲
オーストリア帝国国歌による主題と変奏作品3-1
コラール「我らが神は固き砦」による幻想曲作品13
前奏曲ロ短調作品19-2
* 「ゴッド・セイヴ・ザ・クイーン」による二重フーガ

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