ジョン・ムーア＝ブラバゾン

ジョン・セオドア・カスバート・ムーア＝ブラバゾン：イギリス航空のパイオニア

ジョン・セオドア・カスバート・ムーア＝ブラバゾン（1884年2月8日 - 1964年5月17日）は、イギリス航空史にその名を刻むパイオニアであり、保守党の政治家として活躍した人物です。イギリス国内で初めて動力飛行に成功した英国人パイロットとして知られ、第二次世界大戦中には輸送大臣や航空機生産大臣を務め、戦後のイギリスの航空産業発展にも大きな影響を与えました。

早期の人生と飛行への情熱

ロンドンに生まれたムーア＝ブラバゾンは、裕福な家庭で育ちました。ハーロー校を経てケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジに進学しますが、在学中から自動車レースに熱中し、メカニックとしての活動に時間を費やしたため、卒業には至りませんでした。彼は自動車レースでも成功を収め、1907年にはミネルバでアルデンヌレースで優勝しています。

自動車レースでの成功体験を経て、ムーア＝ブラバゾンは飛行への関心を深めます。1908年にはフランスでヴォワザン複葉機による飛行訓練を受け、1909年5月2日、イギリスのシェピー島で、イギリス人として初めてイギリス国内での公式飛行を達成しました。その後も、飛行技術の研鑽を続け、同年10月にはショート兄弟製の飛行機で1マイル以上の周回飛行を行い、デイリー・メール新聞社の賞金を獲得する快挙を成し遂げました。さらに、同年11月には、子豚をバスケットに入れて飛行機で運ぶという、当時としては画期的な飛行も行っています。

1910年には、王立飛行クラブからライセンス第1号を取得し、愛車のナンバープレートには「FLY 1」を付けるなど、飛行への情熱は並々ならぬものでした。しかし、親友であるチャールズ・ロールズが飛行機事故で亡くなったことを機に、飛行を一時中断します。

第一次世界大戦と空軍での活躍

第一次世界大戦が勃発すると、ムーア＝ブラバゾンは再び飛行の世界に戻り、イギリス陸軍航空隊に加わります。西部戦線では、航空写真撮影や偵察飛行の技術開発に大きく貢献し、その功績により、戦争終結時には中佐に昇進、ミリタリー・クロスとフランスのレジオンドヌール勲章を受章しました。1918年には、陸軍航空隊と海軍航空隊が統合されてイギリス空軍が創設されると、その参謀となりました。

戦時下の政治家としての活動

戦後、ムーア＝ブラバゾンは保守党の議員となり、ウィンストン・チャーチル率いる戦時内閣に参加します。1940年には輸送大臣に任命され、枢密院にも参加しました。その後、1941年には航空機生産大臣に就任し、航空機の生産を統括する立場となりました。しかし、ドイツとソ連の相互壊滅を望む発言が問題となり、1942年には辞任しています。

戦後の航空産業発展への貢献

1943年には、戦後のイギリス航空産業の発展計画を策定するためのブラバゾン委員会の委員長に就任。その中で作成された「ブラバゾン報告書」は、戦後イギリスの民間航空機の開発方針に大きな影響を与えました。この報告書に基づき開発された巨人旅客機「ブリストル ブラバゾン」は、1949年9月に初飛行を成功させました。

ムーア＝ブラバゾンは、晩年までイギリス航空界の発展に貢献し続け、イギリス飛行クラブ会長や王立研究所総裁などを歴任しました。彼の功績は、イギリスの航空史に燦然と輝き続けています。 彼の生涯は、航空技術の進歩と、国家の安全保障、そして経済発展における航空産業の重要性を示す、貴重な歴史的証言となっています。

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