ブラバゾン委員会

ブラバゾン委員会とは

ブラバゾン委員会は、第二次世界大戦中の1942年12月23日に、イギリス帝国の将来の民間旅客機市場の需要を調査するために設立されました。委員会の目的は、戦後の帝国植民地（南アジア、アフリカ、中近東）とイギリス連邦（オーストラリア、カナダ、ニュージーランド）における旅客、郵便、貨物の航空需要を見積もり、予測される航空技術の進歩による影響を明らかにすることでした。

イギリス帝国とイギリス連邦は、戦後の世界で政治的、経済的に存続し、自主独立を維持するためには、航空システム、特に航空機が不可欠であると認識していました。もし、需要を理解できず、航空システムを提供するための産業社会資本の開発、必要なサブシステムの供給、世界的な航空輸送の維持ができない場合、軍事および商業上の理由から帝国は存在し続けることができないと考えられました。

設立の背景

1942年、アメリカとイギリスは多発航空機の製造責任を分割することに合意しました。アメリカは輸送機、イギリスは重爆撃機を担当しました。この決定の結果、イギリスは戦争終結まで輸送機の設計、製造、最終組み立ての経験を得ることができず、生産設備や訓練された人材が不足しました。一方、アメリカは強力な生産設備を基に軍用輸送機を民間航空機として製造し、戦後の大英帝国とイギリス連邦の民間航空輸送需要を満たすことが予想されました。

委員会は、1943年2月にジョン・ムーア＝ブラバゾン卿の主導の下で会合を開始し、将来のイギリス民間旅客機市場の調査を行いました。委員会は2年以上にわたり、異なる市場分野の需要を明確にするため、複数の設計案と技術検討を行いました。最終報告書では、委員会と国有航空会社である英国海外航空（BOAC、後のブリティッシュ・ヨーロピアン航空（BEA））のメンバーによって、4種類の機体の開発が提言されました。

報告書の内容

報告書では、当初4機種、後に5機種の航空機が戦後必要になると提言されました。

I型: ロンドン - ニューヨーク間のような12時間の旅行に対応する、豪華座席を備えた長距離大容量路線向けの超大型大陸横断旅客機。
II型: 短距離路線でDC-3やデ・ハビランド DH.89 ドラゴン・ラピードを更新する機体。BEAはより大型で大容量の設計を求めました。II型は後にピストンエンジン式のIIA型とターボプロップ式のIIB型の2つの設計に分割されました。
III型: 大英帝国の様々な路線向けの大型中距離旅客機。
IV型: 最も先進的なジェットエンジンを備えた100席の機体。ジェフリー・デハビランドによって個人的に追加されました。ジェット旅客機が実用化されれば、III型や他の多くの短距離機を置き換えることが可能でした。
V型: II型の設計案が大型化された後に、短距離路線を満たすための仕様。

委員会は、1943年8月から1945年11月の間に複数回報告書を発表し、それぞれの機種の仕様を固めていきました。

航空機の開発

1944年、軍需省はこれらの機体の開発を開始しました。軍用仕様に則り、航空機メーカーが設計や試作機を提供しました。

I型: ブリストル ブラバゾンとMiles X-15が競合し、ブリストル飛行機が担当することになりました。
II型: ヴィッカースがターボプロップへ転換したため、仕様が二分割されました。IIA型はデ・ハビランド DH.104 ダブとエアスピード アンバサダー、IIB型はヴィッカース VC.2 Viceroyとアームストロング・ホイットワース A.W.55アポロが要求を満たしました。IIA型はエアスピード アンバサダーとして、IIB型はビッカース バイカウントとして開発されました。
IIIB型: アブロ チューダーとして開発されました。
IV型: デ・ハビランドによって世界初のジェット旅客機であるコメットとして開発されました。
VA型: ハンドレページ マラソンとして開発されました。
VB型: デ・ハビランド DH.104 ダブとして開発されました。

成功と失敗

ブラバゾンの設計のうち、成功したのは2機種のみでした。他の2機種は社会情勢次第で成功する可能性がありましたが、残りの2機種は失敗しました。

I型: 設計はBOACの需要に基づいていたため、奇妙で高価なものとなり、長距離飛行能力や旅客数を増やす概念が欠如していました。試作機は1機のみ製造され、2機目は解体されました。
II型: 小型なダブとバイカウントは成功を収め、100機以上が生産されました。バイカウントは特に成功した機体の一つです。
アンバサダーとマラソン: ターボプロップ機と競合し、マラソンは後にエンジンを換装してダートヘラルドになりました。
III型: 運行開始が遅れ、アメリカのジェット機と競争することになりました。
IV型（コメット）: 3度の墜落事故と設計変更により、アメリカのボーイング707に追いつかれることになりました。

1960年代には、イギリスはアメリカに旅客機市場を失いました。BAC 1-11、ビッカース VC-10、ホーカー・シドレー トライデントも成功しましたが、失われた市場を奪還することはできませんでした。その後、超音速旅客機であるコンコルドがフランスとの共同開発で実現しました。

まとめ

ブラバゾン委員会は、戦後のイギリス航空産業の方向性を決定づけた重要な組織でした。委員会が提言した航空機開発は、イギリス航空産業に大きな影響を与えましたが、成功と失敗の両面がありました。委員会が描いた未来は、必ずしも実現したわけではありませんが、その後のイギリス航空史における重要な転換点であったことは間違いありません。

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