ジョン・ロジャーズ・ハーバート

ジョン・ロジャーズ・ハーバート：夭折の天才とラファエル前派への影響

ジョン・ロジャーズ・ハーバート (1810-1890) は、19世紀イギリスを代表する画家のひとりです。ドラマチックな構図と精緻な描写で知られる彼の作品は、後のラファエル前派に多大な影響を与えたとされています。華麗な経歴の裏には、挫折や困難を乗り越える彼の強い意志が垣間見えます。

困難な出発と王室への接近

エセックス州モールドンに生まれたハーバートは、17歳でロンドンへ移り住み、ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツで研鑽を積みます。しかし、父親の死をきっかけに学業を断念。彼は書籍の挿絵や肖像画制作で生計を立てながら画家の道を歩み始めました。
才能は認められ、1834年には当時王女だったヴィクトリア女王の肖像画を制作する栄誉に浴します。しかし、ハーバートの真の野望は、大規模な歴史画やロマンティックな主題の作品を通して、芸術家としての地位を確立することにありました。彼は精力的に作品を発表し続け、ロンドンの美術展で注目を集めていきます。特に、1835年に発表した『待ち合わせの場所で殺されたヴェネツィアの女性』は高い評価を受け、版画としても出版されました。

宗教への傾倒とラファエル前派への影響

1840年頃、ハーバートはカトリックに改宗します。この転機は彼の芸術に大きな影響を与え、宗教的な主題の作品を数多く制作するようになりました。この頃の作品は、静謐さと崇高さを兼ね備え、後のラファエル前派の画家たちに強い感銘を与えたとされています。
彼は、ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの弟、ウィリアム・ミカエル・ロセッティが編集する雑誌『The Germ』の出版にも協力。ラファエル前派の勃興を間近で支えた存在でもありました。ウィリアム・ホルマン・ハントやジョン・エヴァレット・ミレーといったラファエル前派の巨匠たちの初期作品には、ハーバートの作品が色濃く反映されていることが指摘されています。
さらに、1850年のロイヤル・アカデミー展で、ハントとミレーの作品が論争を巻き起こした際には、ハーバートは積極的に彼らを擁護し、若き才能を後押ししました。

ウェストミンスター宮殿の装飾画：試練と成功

1834年に焼失したウェストミンスター宮殿の再建事業では、宮殿の装飾画制作コンテストが開催されました。ハーバートは数多くの画家の中から選ばれ、シェイクスピアの『リア王』の場面を描画することになります。
しかし、フレスコ画制作は容易ではありませんでした。彼の作品は完成後すぐに劣化が始まり、修復を余儀なくされました。1850年にはさらに9枚の壁画を描くことになりましたが、フレスコ画の難しさに苦しみ、制作途中の劣化に悩まされました。最終的に、アルバート王子の提案に従い新しい技法を採用し、1864年にようやく完成させました。この経験は、ハーバートの芸術家としての試練と粘り強さを象徴する出来事となりました。

結論

ジョン・ロジャーズ・ハーバートは、宗教画から歴史画、肖像画まで幅広いジャンルを手がけた多才な画家でした。王室への接近、ラファエル前派との交流、そしてウェストミンスター宮殿装飾画という大事業への参加など、彼の生涯はドラマチックな出来事に満ち溢れています。彼の作品は、技術の高さだけでなく、当時の社会情勢や宗教観を反映した、時代を映す鏡として、今日まで高く評価されています。

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