ジョン・E・ウォーカー

サー・ジョン・アーネスト・ウォーカー（Sir John Ernest Walker）は、1941年1月7日にイギリスで生まれた著名な化学者です。彼は、生体内でエネルギー通貨として機能するアデノシン三リン酸（ATP）を生成する酵素、アデノシン三リン酸合成酵素の複雑な機構を分子レベルで明らかにした功績により、1997年にアメリカの化学者ポール・ボイヤーとともにノーベル化学賞を受賞しました。同年のノーベル化学賞は、デンマークの化学者イェンス・スコウも受賞していますが、ウォーカーとボイヤーの研究とは直接関連するものではありませんでした。

ウォーカーはウェスト・ヨークシャー州ハリファクスに、石工の父アーネスト・ウォーカーとアマチュア音楽家の母エルジー・ロートンの間に誕生しました。二人の妹とともに田園地帯で少年時代を過ごし、地元の初等中学校で学びました。学生時代はスポーツに秀で、特に最後の3年間は物理学と数学で顕著な才能を示しました。高等教育はオックスフォード大学セント・キャサリン校に進み、そこで学士号を取得しました。

大学卒業後、1965年からウォーカーはエドワード・アブラハムのもとでペプチド性の抗生物質に関する研究を開始し、1969年に博士号を取得しました。この博士課程在籍中に、彼は分子生物学分野が急速に進展している状況に強い関心を寄せるようになります。博士号取得後、1969年から1971年にかけてアメリカのウィスコンシン大学マディソン校で、続く1971年から1974年にかけてはフランスで、それぞれ研究員として経験を積みました。

1974年、ウォーカーはケンブリッジ大学で行われた研究会で、DNAの塩基配列決定法を確立したことで知られるフレデリック・サンガーと出会います。この出会いがきっかけとなり、彼はメディカルリサーチカウンシル（MRC）分子生物学研究所（LMB）で長期間にわたる研究キャリアを築くことになります。LMBでは、DNAの二重らせん構造を発見したフランシス・クリックをはじめとする、世界的に著名な科学者たちと机を並べました。

LMBでの初期の研究では、タンパク質の一次構造解析や、細胞内のエネルギー産生を担うミトコンドリアの遺伝子コードの解読に従事しました。しかし、1978年には研究の焦点を転じ、膜タンパク質の研究、特にタンパク質化学的手法を用いた解析へと進みました。この転換が、後にノーベル賞につながるATP合成酵素の機能解析へと発展していきます。彼は生化学的、分光学的、構造生物学的な手法を駆使し、この複雑な分子モーターがどのように回転し、ATPを合成するのかという機構の詳細を分子レベルで解明しました。

個人的な生活においては、ウォーカーは1963年にクリスチャン・ウェストコットと結婚し、二人の娘をもうけています。科学への貢献、特に分子生物学分野における顕著な業績が称えられ、1999年にはナイトの称号を授与されました。また、1995年には王立協会フェローに選出され、2012年には同協会から科学全般における卓越した業績に贈られるコプリ・メダルを受賞しています。これらの栄誉は、彼の長年にわたる献身的な研究活動と科学界への多大な貢献を物語っています。

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