ジョージ・クルックシャンク

ジョージ・クルックシャンク（George Cruikshank, 1792年9月27日 - 1878年2月1日）は、19世紀のイギリスを代表する風刺画家、挿絵画家です。スコットランド出身の著名な風刺画家アイザック・クルックシャンクを父に持ち、ロンドンで生まれました。兄のアイザック・ロバートとともに、幼い頃から父親の仕事を手伝い、画の技術を磨きました。

1810年代には、政治家や当時の社会情勢を題材にした風刺画で、ジェームズ・ギルレイやトマス・ローランドソンに並ぶ人気画家となりました。彼の風刺画は、当時の社会を鋭く批判し、多くの人々の関心を集めました。しかし、風刺版画の人気が衰退した1820年代からは、挿絵の分野へと活動の場を移しました。

挿絵画家としてのクルックシャンクは、フィールディングやデフォーの小説、グリム童話など、数多くの作品を手がけました。その挿絵は、物語の世界観を豊かに表現し、読者に深い印象を与えました。彼は、現代のホガースとも称されるほどの人気を博し、挿絵画家としての地位を確立しました。1830年代には、当時駆け出しであったチャールズ・ディケンズの『ボズのスケッチ集』（1836年）や『オリバー・ツイスト』（1838年）の挿絵も担当しました。これらの作品は、ディケンズの小説の人気とともに、クルックシャンクの挿絵の芸術性も高く評価されています。

しかし、ディケンズの死後の1871年、『オリバー・ツイスト』の物語の基本的な筋や登場人物は、自身が発案したものであると『タイムズ』紙に寄稿し、物議を醸しました。この主張は、ディケンズの創作の独自性を否定するものとして、多くの人々から批判されました。

1840年代に入ると、クルックシャンクの人気はやや衰えを見せ始めました。しかし、彼は、当時の禁酒ブームに影響を受け、8枚つづりの連作版画集『酒びん』（1847年）を発表しました。この作品は、一杯の酒が、良識のある家庭を破滅に導く様子を描いたもので、安価で販売されたこともあり、爆発的な人気を博しました。また、この作品を翻案した小説や演劇も数多く制作されました。クルックシャンク自身も、続編となる版画集『酒飲みの子供たち』（1848年）を制作しています。

『酒びん』の制作をきっかけに、クルックシャンクは熱心な禁酒主義者となり、飲酒の害を説いて回るようになりました。その熱心な活動は、周囲の人々を閉口させたとも伝えられています。また、『グリム童話』を禁酒の教訓を説く内容に改変した挿絵本『クルックシャンクのおとぎ文庫』を発表し、ディケンズなどから、おとぎ話の改ざんであると非難を浴びました。

1860年には、禁酒をテーマにした4メートルにおよぶ大作『バッカス崇拝』を制作しました。この作品は、飲酒の誘惑を描いたもので、禁酒に対するクルックシャンクの強い思いが込められています。現在、この作品は、ロンドンのテート・ギャラリーに収蔵されています。

クルックシャンクは、風刺画家、挿絵画家として、時代を切り取った作品を数多く残しました。彼の作品は、社会風刺の鋭さと、物語を豊かに彩る挿絵の美しさで、今もなお多くの人々を魅了しています。

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