ジョージ・フレッチャー・モー

ジョージ・フレッチャー・モー（George Fletcher Moore, 1798年12月10日 - 1886年12月30日）は、西オーストラリア初期の入植者として、その歴史に名を刻む人物です。彼は、法律家としてのキャリアを捨ててオーストラリアへ渡り、広大な土地の開拓、探検、そして先住民アボリジニの文化研究に情熱を注ぎました。モーは、当時の植民地社会において、支配階級の一員として重要な役割を担い、その一方で、アボリジニの言語や習慣を記録し、彼らの権利を擁護する立場を表明しました。

生涯

アイルランドでの青年期

モーは、アイルランドのティロン県で生まれました。ダブリンのトリニティ・カレッジで法律を学び、卒業後は法曹界で働くものの、そのキャリアに見切りをつけ、新たな可能性を求めてオーストラリアへ渡ることを決意します。スワン川植民地への移住を決めたモーは、1830年に到着。当初は司法の職を得る予定でしたが、到着前に現地の土地開拓問題に関心を抱き、自ら農場経営に乗り出すこととなります。

農場経営者として

モーは、広大なエイボン谷の土地開発に着手し、アッパースワンの土地開発にも関わりました。1831年には、ロバート・デールと共にヨークまで探検を行い、エイボン川とスワン川が同一の水系であることを確認します。内陸部の牧草地の情報を得たモーは、農場経営を拡大し、翌年には植民地でも有数の羊を所有する大農場主に成長しました。

アボリジニへの関心

モーは、アボリジニに対して友好的な態度で接し、彼らの文化、言語、習慣に深い関心を抱いていました。彼は、アボリジニの言葉を学び、その記録を残すだけでなく、彼らの権利を擁護し、キリスト教化を推進しようとしました。1833年には、犯罪者として指名手配されていたイェーガンと面会し、アボリジニの習慣に関する記事を執筆。また、アボリジニの言語学習を支援しました。この頃から彼は、アボリジニとの友好的な関係構築、および権利保護を主張しました。

探検活動

モーは、1834年から1836年の間に、積極的に探検活動を行いました。スワン川を遡上し、エイボン川との合流点を確認。ガルバン川流域に放牧に適した地を発見し、この川は後にモー川と改名されました。彼は、探検を通じて、西オーストラリアの内陸部に関する地理的な知識を深めました。1836年には、ジョン・セプチマス・ロウの探検隊に加わり、内海を目指しましたが、乾燥地帯を発見するに至っています。

司法官僚として

1834年にモーは司法長官に任命され、植民地の上院議員にも就任しました。彼は、知事の政策に反対する立場を表明し、特にアボリジニに対抗する騎馬警察の創設に反対しました。1839年、ジョン・ハットが行政官に就任すると、モーと共にアボリジニ語の辞書制作に取り組みました。この辞書は、1842年に『A Descriptive Vocabulary of the Language in Common Use Amongst the Aborigines of Western Australia』として出版され、アボリジニの言語研究において重要な貢献となりました。

晩年

1843年、モーがオーストラリアに戻った頃、植民地は不況に見舞われていました。モーは、地主層の不始末を非難し、彼らへの救済策に反対しました。1846年には、クラーク行政官の義理の娘であるファニーと結婚。行政官の娘婿という立場から、一時的に植民長官代行を務めましたが、その後は行政への影響力を失っていきます。1852年、モーは病気の父を見舞うためにアイルランドへ帰国しましたが、妻の精神状態が悪化したため、西オーストラリアに戻ることはありませんでした。1878年、モーの手紙が新聞に連載され、1884年には『Diary of Ten Years Eventful Life of an Early Settler in Western Australia』として出版されました。1886年12月30日、モーはロンドンで孤独な死を迎えます。彼の死は、植民地での輝かしい経歴とは対照的に、悲しい結末として語られています。

まとめ

ジョージ・フレッチャー・モーは、初期の西オーストラリア植民地における重要な人物でした。法律家としてのキャリアを捨てて入植者となり、土地開拓、探検、アボリジニ研究に尽力しました。彼の生涯は、植民地社会の形成、先住民との関わり、そして植民地官僚としての葛藤など、複雑な要素が絡み合った歴史の一側面を映し出しています。

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