ジョーダン・191

ジョーダン191：新規参入チームの躍進を支えた名マシン

ジョーダン・グランプリが1991年のF1世界選手権参戦のために開発したフォーミュラ1カー、ジョーダン191。ゲイリー・アンダーソンとマーク・スミスが設計を手掛け、シーズンを通して活躍しました。当初は「ジョーダン911」という名称でしたが、ポルシェからのクレームにより「ジョーダン191」へと改名されたことは有名です。

コンサバティブな設計と先進的な空力

シャーシの基本設計は保守的なアプローチがとられましたが、空力デザインにおいては当時の最先端技術が惜しみなく投入されました。ティレル019で初採用されたハイノーズとアンヘドラルウイングを改良したトーショナルウイングを装備。ウイング中央部は揚力を抑えるため弦長を短く、翼端板側はダウンフォースを増強するため弦長を長くするなど、空力特性を最適化するための工夫が凝らされています。丸みを帯びたペンシルノーズやホームベース型のコクピット開口部、そして2つの大型トンネルを持つディフューザーなど、レイトンハウスの空力トレンドを独自に解釈した設計となっています。
特筆すべきは、リアエンドに向けて下部をえぐり込んだ独特のサイドポンツーン。このデザインは、後に多くのチームが模倣するほど影響力のあるものとなりました。リヤウィングは多くのレースで3段式が使用され、強力なダウンフォースを生み出しました。フロントサスペンションには、当時最新の技術であったモノショック式を採用し、サスペンションアームにはカーボン製パーツを初めて導入するなど、軽量化と高性能化が追求されています。

強力エンジンとスポンサー獲得

エンジンは、新規参戦チームながらフォードHBエンジンとの契約を締結。これは、ベネトン以外ではジョーダンのみが使用を許された貴重な権利でした（ただし、最新スペックのエンジンはベネトンのみが使用）。ベネトンやリジェ、スクーデリア・イタリアといった強豪チームを抑えての契約獲得は、チームにとって大きな一歩となりました。

初走行は元F1ドライバーのジョン・ワトソンが担当。当初はカーボン地の黒一色でしたが、スポンサーである7upと富士フイルムの参入により、アイルランドの国旗カラーである緑と青を基調とした鮮やかなカラーリングが施されることとなりました。

開発秘話：ゲイリー・アンダーソンの証言

設計者であるゲイリー・アンダーソンは、レイナードでの経験を経てジョーダンからF1参戦計画への参加を誘われ、1990年2月からジョーダン191の開発に着手しました。サスペンション設計はマーク・スミス、ギヤボックス設計はアンドリュー・グリーンが担当。アンダーソン自身は機械工学の専門教育を受けていなかったため、スミスやグリーンらと協力して設計を進めていきました。また、自身のメカニック経験を活かし、整備性の高いシンプルなデザインを心がけたことも特徴です。

当初、F1参戦計画の実現性やマシンの完成に確信を持てていなかったアンダーソンは、フォードとのエンジン供給契約が成立した際に大きな驚きを覚えたと語っています。

1991年シーズン：シューマッハデビューの舞台

ドライバーには、ベテランのアンドレア・デ・チェザリスと若手のベルトラン・ガショーが起用されました。プレシーズンテストでは予想を上回る好成績を残し、大きな期待を集めました。
シーズン序盤は予備予選を難なく通過し、中団グループで安定した成績を残しました。カナダGPでは、デ・チェザリスとガショーが4位と5位で入賞し、チーム初ポイントを獲得。その後も入賞を重ね、前半戦で好成績を残したことにより、後半戦は予備予選免除となりました。

しかし、順調なシーズンに影を落とす出来事が発生します。ガショーが傷害容疑で逮捕され、出走不能となったのです。彼の代役として選ばれたのは、F1未経験ながら高い才能を持つミハエル・シューマッハでした。シューマッハはベルギーGPでF1デビューを果たし、予選7位を獲得。決勝では5位まで順位を上げたものの、クラッチトラブルでリタイアしました。このベルギーGPでの活躍は、シューマッハのキャリアにおける重要な転換点となりました。
シューマッハはベルギーGPのみの参戦でしたが、その後はロベルト・モレノ、アレッサンドロ・ザナルディといったドライバーが、シーズン終盤までチームを支えました。
最終的にジョーダンは、新規参入チームながらコンストラクターズランキング5位という素晴らしい成績でシーズンを終えました。

美しいデザインとレガシー

ジョーダン191は、スタイリッシュなデザインと鮮やかなカラーリングから、多くのF1ファンから人気の高いマシンとなっています。シューマッハのF1デビューマシンとして記憶されていること、そしてその活躍は、ジョーダン191の偉業をさらに輝かせるものとなっています。2011年のベルギーGPでは、シューマッハのデビュー20周年を記念して、彼のデビュー戦で使用されたジョーダン191のクラッチがエディ・ジョーダンからシューマッハに贈られました。

アンダーソンは、当時のコスワースとの関係について、技術的な協力関係はなかったと証言。また、ワトソンはジョーダン191を高く評価しており、セナにもそのポテンシャルを絶賛されたという逸話も残っています。一方で、コックピットが狭く、特に長身のガショーにとっては問題となったというエピソードも興味深いです。

ジョーダン191は、技術革新、戦略、そして人材育成といった、F1チーム成功の様々な要素が凝縮されたマシンと言えるでしょう。その功績は、F1の歴史に燦然と輝くものとなっています。

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