ジョーン・オブ・ナヴァール

ジョーン・オブ・ナヴァール：ブルターニュ公爵夫人からイングランド王妃へ、そして幽閉の生涯

ジョーン・オブ・ナヴァール（1370年頃 - 1437年6月10日）は、中世ヨーロッパで特筆すべき生涯を送った女性です。ナバラ王カルロス2世とフランス王ジャン2世の娘であるフアナの間に生まれ、フランス語名はジャンヌ・ド・ナヴァールでした。兄にはナバラ王カルロス3世やモルタン伯ピエールがいました。

ジョーンはまず、ブルターニュ公ジャン4世と結婚し、9人の子供をもうけました。しかし、彼女の運命は1398年に大きく変わります。当時、ブルターニュ公爵夫人だったジョーンは、後にイングランド王ヘンリー4世となるヘンリー・オブ・ボリングブルックの目に留まったのです。ボリングブルックはリチャード2世から王位を奪取し、ヘンリー4世として即位しました。

ジャン4世の死後、未亡人となったジョーンは、長男ジャン5世の摂政を務めました。しかし、1402年、代理人を介してヘンリー4世との再婚に応じます。ヘンリー4世はブルターニュの支配を企図し、ジョーンとの結婚をその手段と考えたのです。しかし、ブルターニュからの反発を受け、ジョーンは摂政の職を放棄せざるを得ませんでした。子供たちもブルターニュに残されました。

1403年、ジョーンは子供たちをブルターニュに残し、イングランドへ渡り、ウィンチェスター大聖堂でヘンリー4世と正式に結婚しました。この結婚で子供は生まれなかったものの、夫婦仲は良好で、ヘンリー4世はジョーンへの支出を増やし、ジョーンも王と前妻の子供たちを愛情深く接しました。

ヘンリー4世の死後も、ジョーンの待遇は変わりませんでした。後継者ヘンリー5世はジョーンに寡婦年金を支給し、実の母親のように慕いました。しかし、1415年に百年戦争が再開されると、アジャンクールの戦いでフランス軍が敗北。ジョーンの娘マリーと結婚していたアランソン公ジャン1世が戦死し、次男のアルテュール（後のアルテュール3世）は捕虜となりイングランドに送還されるという不幸に見舞われました。

1419年、ジョーンの運命は再び大きく変わります。ベッドフォード公ジョンの命令により、妖術を用いて国王殺害を企てたと逮捕され、財産を没収されてペヴンジーに幽閉されたのです。しかし、後にヘンリー5世によって釈放され、義理の孫にあたるヘンリー6世からも財産を返還されました。そして、かつてと同じ待遇を取り戻し、余生を送りました。1437年に亡くなると、夫ヘンリー4世の傍ら、カンタベリー大聖堂に埋葬されました。

ジョーン・オブ・ナヴァールは、ブルターニュ公爵夫人、イングランド王妃、そして幽閉者という、波乱に満ちた生涯を送りました。彼女は政治的駆け引きの道具とされた側面もある一方、家族への深い愛情を持ち合わせていた複雑な女性像として歴史に刻まれています。彼女の生涯は、中世ヨーロッパにおける女性たちの役割や、権力闘争の残酷さを浮き彫りにするものです。

子女

ジョーンは最初の夫ジャン4世との間に9人の子供をもうけました。

ジャンヌ（1387年 - 1388年）
次女（名前不明、1388年）
ジャン5世（1389年 - 1442年）：ブルターニュ公
マリー（1391年 - 1446年）：1398年、アランソン公ジャン1世と結婚
マルグリット（1392年 - 1428年）：1407年、ロアン子爵アラン9世と結婚
アルテュール3世（1393年 - 1458年）：ブルターニュ公
ジル（1394年 - 1412年）：シャントセ領主
リシャール（1394年 - 1438年）：エタンプ伯
ブランシュ（1397年 - 1416年頃）：1407年、アルマニャック伯ジャン4世と結婚

参考文献

森護『英国王室史話』大修館書店、1986年
ジャン＝ポール・エチュヴェリー著、大谷暢順訳『百年戦争とリッシュモン大元帥』河出書房新社、1991年
清水正晴『《青髯》 ジル・ド・レの生涯』現代書館、1996年
石井美樹子『イギリス 王妃たちの物語』朝日新聞社、1997年
トレヴァー・ロイル著、陶山昇平訳『薔薇戦争新史』彩流社、2014年

もう一度検索