ジレンマ (ネリーの曲)

ジレンマ (Dilemma)

「ジレンマ」は、アメリカのラッパーであるネリーが、当時ガールズグループ、デスティニーズ・チャイルドのメンバーとして活動していたケリー・ローランドをフィーチャリングに迎えて制作されたデュエットシングルです。

リリースと収録

この楽曲は、ネリーのセカンドアルバム『ネリービル』（Nellyville）からのサードシングルとして、またケリー・ローランドにとってはソロアーティストとしてのデビューアルバム『シンプリー・ディープ』（Simply Deep）の先行シングルとして、2002年6月にリリースされました。両アーティストにとって、それぞれのアルバムのリリースに弾みをつける重要な楽曲として位置づけられました。

記録的な大ヒット

リリースされるやいなや、「ジレンマ」は爆発的なヒットを記録します。特にアメリカ合衆国では、ビルボードの主要チャートで10週連続にわたって第1位を獲得し、ミリオンセラーを達成する歴史的な成功を収めました。この成功はアメリカ国内にとどまらず、世界各国の主要音楽チャートでも軒並みトップに輝き、ネリーを一躍国際的なスターダムへと押し上げました。

受賞と評価

その商業的な成功だけでなく、「ジレンマ」は音楽業界からも高く評価されました。2003年に開催された第45回グラミー賞では、「最優秀ラップ／サング・パフォーマンス」（Best Rap/Sung Performance）部門を受賞。これは、ラップとボーカルが融合した楽曲に対する先駆的な評価であり、ジャンルを跨ぐコラボレーションの成功を示すものでした。その他にも、BETアワードやソウル・トレイン・ミュージック・アワード、ビルボード・ミュージック・アワード、MTVビデオ・ミュージック・アワードといった主要な音楽賞にノミネートされ、その人気と影響力の大きさを証明しました。

楽曲の背景と制作秘話

「ジレンマ」の楽曲制作には、ソウルミュージックのレジェンドからの影響があります。ケリー・ローランドが歌う印象的な「アイ・ラヴ・ユー」「アイ・ニード・ユー」といったフレーズは、パティ・ラベルが1983年に発表した楽曲「ラヴ、ニード・アンド・ウォント・ユー」（Love, Need and Want You）からサンプリングされ、着想を得ています。ネリーは、原曲から感じ取った魅力を、現代のリアルな女性ボーカルで表現したいと考えました。

ケリーに白羽の矢が立ったのは、2001年にデスティニーズ・チャイルドが行った全米ツアー「トータル・リクエスト・ライブ・ツアー」（Total Request Live Tour）にネリーが帯同し、親交を深めていたことがきっかけです。ネリーはケリーに新曲でのデュエット参加をオファーし、ここに歴史的なコラボレーション「ジレンマ」が誕生しました。

ミュージックビデオとカメオ出演

楽曲のヒットと共に、ミュージックビデオも大きな話題となりました。ビデオでは、ネリーとケリーが楽曲の歌詞世界、すなわち禁断の恋の葛藤を情感豊かに演じています。特筆すべきは、楽曲の元ネタとなった「ラヴ、ニード・アンド・ウォント・ユー」のオリジナル歌手であるパティ・ラベルが、ケリーの母親役としてカメオ出演している点です。これは、楽曲のルーツに対する敬意を示すと同時に、ファンにとっては嬉しいサプライズとなりました。

「ジレンマ」のその後：続編「ゴーン」

「ジレンマ」の大成功後も、ネリーとケリーの関係は続きました。2011年には、再び二人のコラボレーションが実現。シングル「ゴーン ～ ジレンマ pt.II」（Gone）としてリリースされました。この楽曲は、ネリーのシックスアルバム『5.0』（5.0）に収録されており、「ジレンマ」で描かれた、すでに相手がいる女性との関係というテーマを彷彿とさせる続編的なニュアンスを持っています。ネリーはケリーについて、「彼女は私にとって妹のような存在だが、同時に私は彼女の大ファンでもある」と語っており、二人の強い絆とリスペクトが伺えます。

公式リミックス

「ジレンマ」には公式なリミックスも存在します。プロデューサーのジャーメイン・デュプリが手掛けたこのリミックスは、ネリーのリミックスアルバム『ザ・リインヴェンション～ダ・ダーティ・ヴァージョンズ』（Da Derrty Versions: The Reinvention, 2003年）に収録されました。アリ（Ali）もフィーチャリングされており、ジャーメイン自身もイントロやバックボーカルで参加。よりダンサブルでフロアを意識したアレンジとなっています。このリミックスは、日本でのみ発売されたベストアルバム『ザ・ベスト・オブ・ネリー』（The Best of Nelly, 2009年）にも収録されています。

多彩なカバーバージョン

世界的なヒットとなった「ジレンマ」は、様々なアーティストによってカバーされています。主なバージョンとしては、2004年にパピ・サンチェス（Papi Sanchez）がスペイン語でカバーしたバージョンや、同じく2004年にサヴァナ（Savana）がダヴィダ（Davida）をフィーチャーしてレゲエバージョンにアレンジしたものが挙げられます。サヴァナによるバージョンは、彼女のデビューアルバム『Yutes Dem Hustlin』に収録され、UKのレゲエチャートで第1位を獲得するなど成功を収めました。

日本においても、2019年にシンガーソングライターのRIRIが、ラッパーのJP THE WAVYを迎え、日本語でのカバーを発表しています。このバージョンはRIRIのEP「Summertime EP」に収録されており、先行配信も行われました。

「ジレンマ」は、ネリーとケリー・ローランドのキャリアを語る上で欠かせない一曲であり、その影響力はリリースから時を経てもなお、様々な形で受け継がれています。

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