ジローナのサルバリー

ジローナのサルバリー

ジローナのサルバリー（カタルーニャ語: Cerverí de Girona）は、現在のスペイン、カタルーニャ地方の都市ジローナに縁のある中世の詩人であり、トルバドゥール（叙情詩歌人）です。正確な生没年は明確ではありませんが、彼の活躍期は13世紀後半、具体的には1259年から1285年頃にかけてであったとされています。本名をギリェム・ダ・サルバリー（カタルーニャ語: Guillem de Cervera）といい、その名は彼が出自とするサルバリー（セルベーラ）の地に由来すると考えられています。

トルバドゥールの中でも特に多作であったことで知られるサルバリーは、非常に多くの作品を残しました。確認されているだけで約130篇に及ぶ彼の詩には、多様なジャンルが含まれています。恋愛を主題とした牧歌的な詩であるパストゥレルや、当時の社会情勢や政治、あるいは特定の人物を風刺するシルヴェンテスといった形式の詩を手がけました。彼の作品の大部分は叙情詩であり、その数は114篇に上ります。また、自身の息子に向けて人生の教訓や規範を説いた長編の教訓詩エンセナーメンも含まれています。残念ながら、彼の詩に合わせて作曲された音楽は現在まで伝わっておらず、後世の私たちは彼の言葉の世界のみを知ることができます。

サルバリーの経歴は、当時のアラゴン＝カタルーニャ連合王国の宮廷と深く結びついています。彼は、その治世が長く続いたハイメ1世、そしてその後に王位を継承した息子のペドロ3世に宮廷詩人として仕えました。王からの庇護を受ける一方で、彼はまたフランス南部のロデーズ伯、具体的にはユーグ4世とその息子アンリ2世からも厚い後援を受け、その宮廷でも多くの時間を過ごしたようです。

彼の具体的な活動を示す記録もいくつか残っています。1269年には、当時まだ王太子（インファンテ）であったペドロ3世の側近の一人として、他の著名なトルバドゥールであるフルケット・ダ・ルネルやダルフィネットといった詩人たちと共に、イベリア半島の内陸にあるトレドへの旅に同行しました。この旅の途中、クエンカ近郊のリエーリョという地で、王太子への献身的な役務に対する報酬として、当時の価値ある貨幣であるビザンツ帝国の金貨ソリドゥスを受け取ったことが記録されています。これは、彼が単なる詩人であるだけでなく、宮廷における役割を担っていたことを示唆しています。

また、歴史的な出来事に際して詠まれた詩も彼の重要な作品群です。特に、偉大な王であったハイメ1世が1276年8月26日に崩御した際には、その死を悼むプラーニュ（哀歌）である『Si per tristor, per dol no per cossir』を詠みました。この詩は、形式的な追悼にとどまらず、王への個人的で深い悲しみや、王の死によって失われたものへの lament（嘆き）が率直に表現されており、彼の人間性や王との関係性を垣間見ることができます。

ジローナのサルバリーは、その驚異的な多作ぶりと、宮廷での活動、そして多様なジャンルを扱った作品によって、13世紀後半のカタルーニャ詩文学史において独自の地位を占めています。彼の詩は、当時の社会情勢や人々の心情、そして宮廷生活の一端を知る貴重な資料ともなっています。

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