スカマンドリオス

スカマンドリオス

スカマンドリオス（古希: Σκαμάνδριος, Skamandrios）は、古代ギリシア神話における男性名の一つです。この名前は、小アジアのトロイア地方を流れる象徴的な河川であり、神格化された存在でもある河神スカマンドロスに由来するとされています。その土地の重要な自然や神に関連する名を子に付ける慣習が反映されたものと考えられます。

このスカマンドリオスという名前を持つ人物として、神話や歴史の中で言及されるのは主に二人が挙げられます。どちらもトロイアに関連する人物です。

ヘクトールとアンドロマケーの子

一人目は、トロイア随一の勇士であり王子でもあるヘクトールと、その妻であるテバイ出身の王女アンドロマケーの間に生まれた息子です。この息子の出生時の正式な名はスカマンドリオスでした。父であるヘクトールが、自らの故郷を潤す聖なる河にちなんで名付けたと伝えられています。しかし、トロイアの市民たちは彼をスカマンドリオスと呼ぶよりも、「アステュアナクス」（古希: Ἀστυάναξ, Astyanax）という別の名で呼ぶことの方が一般的でした。アステュアナクスとは「町の主」や「都の王」を意味する言葉であり、これは彼が将来トロイアの支配者となることへの期待、あるいは彼という存在そのものが都市の強固な城壁にも劣らないほど重要であるという彼ら市民の願いや敬意が込められた呼称でした。ホメロスによる叙事詩『イリアス』などにおいて、彼は主にこのアステュアナクスという名で登場します。

ストロピオスの子

もう一人のスカマンドリオスは、トロイア側に立って戦った人物の一人です。彼の父はストロピオスという名のトロイア人でした。このスカマンドリオスは、特に優れた狩りの腕前を持つことで知られていました。その技量は並外れており、伝説によれば、狩猟と貞潔の女神アルテミス自らが彼に弓の技術を教え授けたと語られるほどでした。彼はトロイア戦争が勃発すると、故郷を守るために戦列に加わりましたが、戦場でスパルタの王であり、ミケーネの総大将アガメムノンの弟でもあるメネラーオスと相まみえ、その手によって討ち取られてしまいました。彼の死は、多くの英雄や兵士が犠牲となったトロイア戦争における、数多くの悲劇的なエピソードの一つとして描かれています。

このように、スカマンドリオスという同じ名前が、トロイアという都市の運命に深く関わる異なる二人の人物に与えられており、それぞれが異なる形で神話の物語に登場します。

参考文献

ホメロス『イリアス（上）』松平千秋訳、岩波文庫（1992年）
高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』岩波書店（1960年）

関連項目

スカマンドロス
アステュアナクス
ヘクトール
アンドロマケー
メネラーオス
アルテミス

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