スカラー (物理学)

スカラー：大きさのみを持つ物理量

物理学において、スカラーとは大きさのみによって記述される物理量を指します。これは、大きさだけでなく向きも持つベクトル量と対比される重要な概念です。例えば、物体の速さはスカラー量です。時速60キロメートルという速さは大きさのみを示し、向きは含まれません。一方、速度は大きさ（速さ）と向きを併せ持つベクトル量です。

数学的には、スカラーは実数で表現されます。これは、座標系に依存しないという性質に繋がります。座標系を変えても、スカラーの値は変化しません。

スカラー量の例

多くの物理量はスカラーとして扱われます。代表的な例として以下が挙げられます。

質量: 物体の慣性の尺度。kg（キログラム）で表されます。
長さ: 物体の大きさや距離。m（メートル）で表されます。
時間: 事象の継続時間。s（秒）で表されます。
温度: 物体の熱さの程度。℃（摂氏）やK（ケルビン）で表されます。
エネルギー: 物体が持つ仕事をする能力。J（ジュール）で表されます。
電荷: 物体が持つ電気的な性質。C（クーロン）で表されます。
密度: 単位体積あたりの質量。kg/m³（キログラム毎立方メートル）で表されます。

ベクトル量との比較

これに対し、ベクトル量は大きさだけでなく向きも持つ量です。代表的なベクトル量には以下のようなものがあります。

力: 物体の運動状態を変化させる作用。N（ニュートン）で表され、向きも持つ。
速度: 単位時間あたりの変位。m/s（メートル毎秒）で表され、向きも持つ。
加速度: 単位時間あたりの速度の変化。m/s²（メートル毎秒毎秒）で表され、向きも持つ。
電場: 電荷に働く力を表すベクトル場。N/C（ニュートン毎クーロン）で表される。
磁場: 電流や磁石によって生じる磁気的な力。T（テスラ）で表される。

スカラーの数学的性質

スカラーは、通常の数の演算（加減乗除）が適用できます。例えば、2つのスカラー量aとbに対して、a+b、a-b、a×b、a/bといった演算が可能です。

スカラーとテンソル

テンソルは、スカラー、ベクトルを含むより一般的な数学的概念です。スカラーは「0階のテンソル」と見なすことができます。テンソルは座標系の変換に対しても一定の変換則に従います。スカラーは、座標変換によって値が変化しないという性質を持ちます。

関連概念

スカラーに関連する概念として、以下のようなものがあります。

擬スカラー: 座標系の反転に対して符号が変化するスカラー量。
スカラー場: 空間上の各点にスカラー値が割り当てられた場。温度分布などが例として挙げられる。
スカラー波: スカラー場の波動現象。
スカラー計算機: スカラー演算を行う計算機。

まとめ

スカラーは、大きさのみを持つ物理量であり、ベクトル量と対比される重要な概念です。様々な物理現象を記述する上で、スカラー量は不可欠であり、その数学的性質を理解することは物理学を学ぶ上で重要です。

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