スコーネ戦争

スコーネ戦争：バルト海の覇権をかけた北欧の戦い

スコーネ戦争（1675年 - 1679年）は、デンマークがかつての領土であったスコーネ地方を奪還するため、当時のバルト海の覇権国スウェーデンに挑んだ戦いです。この戦争は、単なる領土争いにとどまらず、バルト海の勢力図を大きく塗り替える可能性を秘めていました。

戦争の背景

17世紀のスウェーデンは、「バルト帝国」としてバルト海一帯を支配していました。しかし、ヨーロッパ大陸での戦いにおいて、ブランデンブルク選帝侯との戦いで苦戦を強いられ、その影響力は低下していました。この状況を見たデンマーク王クリスチャン5世は、スコーネ地方奪還の好機と捉え、スウェーデンに宣戦布告しました。また、オランダ侵略戦争に巻き込まれていたオランダも、デンマークを支援するために海軍を派遣し、対スウェーデンで共闘することになりました。

戦争の経過

陸戦：スウェーデン軍の苦闘とカール11世の登場

開戦当初、デンマーク軍は弱体化していたスウェーデン海軍を尻目にスコーネ地方に上陸し、占領に成功します。さらに、ノルウェー軍も北から侵攻し、スウェーデンは苦境に立たされます。しかし、スウェーデン国王カール11世が親征し、スコーネに進撃します。ハルムスタッドの戦いでスウェーデン軍がデンマーク軍を破り、デンマーク軍とノルウェー軍の合流を阻止。その後、ルンドの戦いでは、両軍合わせて1万人に近い戦死者を出すという北欧史上稀に見る激戦の末、スウェーデン軍が勝利し、デンマーク軍を退却させました。ルンドの戦いはスウェーデンがスコーネ全土を奪還するきっかけとなりましたが、その後も一進一退の攻防が続きました。1678年、スウェーデン軍はスコーネ全土の奪回に成功しますが、ノルウェー軍はスウェーデン本土に深く侵入しており、予断を許さない状況でした。しかし、この戦いを通じて、カール11世の指導力に対する国民の信頼が高まりました。

海戦：デンマーク海軍の優位

陸戦とは対照的に、海戦ではデンマーク海軍が圧倒的な優位を誇りました。1676年のエーランド島海戦では、スウェーデン艦隊はデンマーク・オランダ連合艦隊に完敗し、バルト海の制海権を奪われます。翌1677年のキューゲ湾の海戦でも、デンマーク艦隊がスウェーデン艦隊を打ち破り、その優位を決定的なものとしました。当時のスウェーデン海軍は老朽化が進んでおり、バルト海の覇権に陰りが見え始めていました。この状況を好機と見たブランデンブルク選帝侯フリードリヒ・ヴィルヘルムは海軍を設立し、バルト海南岸を威圧するようになります。デンマーク海軍はオランダからの影響を強く受けており、オランダ侵略戦争でスウェーデンと敵対関係にあったオランダは、名将マールテン・トロンプをデンマーク海軍最高司令官として派遣し、デンマーク海軍の強化に貢献しました。一連の海戦の結果、スウェーデン海軍は壊滅的な打撃を受けました。

戦争の膠着化と和平

スコーネ戦争は、両国がそれぞれの強みを生かして戦うものの、決定的な勝利を得ることができず、膠着状態に陥ります。スウェーデン海軍の弱体化は、デンマーク海軍の南バルト海への進出を許し、ゴトランド島を占領されるなど、スウェーデン領土の一部が占領される事態を招きます。スコーネ全土を奪還したスウェーデンと、一部のスウェーデン領土を占領したデンマークは、互いに戦況を好転させることができず、厭戦気分が漂い始めます。1679年8月、フランスの仲介により両国は講和に合意し、オランダとスウェーデンもナイメーヘンの和約によって講和しました。

戦争の結果と影響

講和条約により、領土は戦前の状態に戻され、デンマークの野望は潰えました。スウェーデンはバルト帝国の維持には成功しましたが、大陸側での影響力は低下しました。講和条約はフランス主導で進められ、スウェーデンは条約交渉に参加することすらできず、屈辱的な結果となりました。この戦争は引き分けに終わったものの、スウェーデンの軍事力の低下と絶対主義の不完全さが露呈し、国政改革の必要性が高まりました。一方、デンマークはクリスチャン5世の望みを果たすことができず、政治的にも経済的にも打撃を受けました。しかし、両国の和解により平和が訪れ、クリスチャン5世の妹ウルリカ・エレオノーラとカール11世の結婚が成立し、両国間に20年にわたる平和がもたらされました。

スコーネ戦争は、バルト海の覇権を巡る戦いであると同時に、スウェーデンの国力低下と絶対王政への移行、デンマークの衰退など、北欧史における重要な転換点となりました。

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