スズカケノキ

スズカケノキ（Platanus orientalis）

スズカケノキ科スズカケノキ属に分類される、ダイナミックな樹容を持つ落葉高木です。学名をPlatanus orientalisといい、その属名から一般に「プラタナス」と呼ばれることもありますが、日本国内で街路樹としてよく目にするのは、本種とアメリカスズカケノキの交雑種であるモミジバスズカケノキであることが多いです。

名前の由来

「スズカケノキ」という和名は、この木が秋に実らせる特徴的な果実の形状に由来しています。その球形の集合果が、かつて山伏が修行の際に身につけていた装束「結袈裟（ゆいげさ）」に付けられていた装飾的な房、通称「鈴懸（すずかけ）」あるいは正式名称「鈴梵天（すずぼんてん）」によく似ていることから名付けられました。漢字では「篠懸の木」「鈴掛の木」などと表記されます。

分布と生育環境

本種の原産地は、アジア西部の広範囲に及び、具体的にはバルカン半島から遠くヒマラヤ山脈にかけての地域に自生しています。日本へは明治時代に導入されたとされています。

特徴

スズカケノキは、成長が非常に速く、樹高は通常10メートルから最大30メートルにも達する高木です。最も目を引く特徴の一つは、その樹皮です。古い樹皮が薄片となって不規則に剥がれ落ち、幹や太い枝に独特の斑模様を生み出します。枝は緑がかった褐色をしており、表面にはまばらに皮目が見られます。冬芽が形成される葉痕の上部には、枝を取り巻くように托葉痕が残ります。

葉は互い違いに付く互生で、一枚の葉はカエデの葉に非常によく似た大きな掌状をしています。通常5つから7つに深く切れ込み、それぞれの裂片の縁には鋸歯（のこぎり状のギザギザ）があります。スズカケノキ属の仲間の中でも、本種の葉は特に切れ込みが深い傾向があります。葉柄の基部には小さな托葉が存在します。

開花期は春、具体的には5月頃です。花は目立ちにくい淡黄緑色をしており、一つの木に雄花と雌花を別々に付けます。それぞれが小さな球状の頭状花序に集まって、葉の付け根からぶら下がるように咲きます。

果実は秋の10月頃に成熟します。これは小さな痩果が多数集まった集合果であり、直径は約3.5センチメートルの球形をしています。この球形果が、長い果軸に沿って3つから4つ連なって垂れ下がるのが本種の特徴です。晩秋にはこれらの果実が風に揺れる様子が見られます。

冬の姿としては、葉柄に包まれた葉柄内芽が特徴的です。冬芽は赤褐色でわずかに光沢があり、先端は丸みを帯びています。芽鱗は一枚のみで、表面は無毛です。落葉後の葉痕は、この冬芽をぐるりと取り囲むような形をしています。

保全状況

国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストでは、Ver. 2.3 (1994) において、絶滅の危険性が低い「LOWER RISK - Least Concern（軽度懸念）」と評価されています。

利用

スズカケノキは成長が非常に速いため、日陰を作る目的で街路樹や公園樹として広く利用されてきました。その景観的な価値の高さから、ニレ、ボダイジュ、マロニエと並んで「世界四大街路樹」の一つに数えられています。ただし、前述のように、日本国内で街路樹として主に植えられているのは、より環境適応性の高いモミジバスズカケノキの方が多いのが現状です。材は比較的柔らかく、器具材などにも利用されます。

文化的な側面

日本の俳句においては、「篠懸の花（すずかけのはな）」は春の季語として詠まれることがあります。また、スズカケノキには「天才」「非凡」といった花言葉が付けられています。これは古代ギリシアにおいて、哲学者たちがアテネのプラタナスの並木道の木陰で議論を交わし、哲学を説いたという故事に由来すると言われています。

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