スタインウェイ・バーティグランド

スタインウェイ・バーティグランド：1世紀を超える歴史を持つアップライトピアノ

1903年、スタインウェイ・アンド・サンズ社は画期的なアップライトピアノ、モデルKを発表しました。後に「バーティグランド」と呼ばれるこのピアノは、現在も生産されている最も古いアップライトピアノの一つであり、その堅牢な設計は1世紀以上にわたって受け継がれています。

モデルKの誕生と発展

スタインウェイ社の製作責任者、ヘンリー・ジーグラーによって設計されたモデルKは、当時としては高価な500ドル（現在の価値で1万6千ドル以上）で販売されました。「バーティグランド」という名称は、同社の他のピアノと比較してそのサイズを反映したものです。高さ52インチ（約132cm）は、同社の他のアップライトピアノと比較して中間のサイズでした。

1910年の『ニューヨーク・トリビューン』誌は、モデルKを「20世紀の科学と音楽の進歩の結晶」と称賛しました。作曲家グスタフ・マーラーも、その高い品質を絶賛したと言われています。

モデルKは1930年代の大恐慌の影響で一時生産が中止されますが、ハンブルク工場では生産が継続されました。第二次世界大戦中の連合軍の空襲によってハンブルク工場は大きな被害を受け、当時の記録は全て失われてしまいました。

1982年、モデルKはモデルK52として復活します。オリジナルの設計図は失われていたため、古いモデルKを詳細に分析し、再設計されました。現代のモデルKは、オリジナルとほぼ同じ寸法と弦のスケールを維持しており、長きにわたる信頼性と高い品質を証明しています。

アビーロード・スタジオの「ミセス・ミルズ」

アビーロード・スタジオが所有する1905年製のバーティグランドは、「ミセス・ミルズ」として広く知られています。イギリス人ピアニスト、ミセス・ミルズが頻繁に使用したことに由来するこの愛称は、このピアノの歴史の一部となっています。

アビーロード・スタジオは1953年にこのピアノを購入しました。エンジニアのStuart Eithamは、より独特なサウンドを生み出すため、スタインウェイ社の技術者にこのピアノを調整させました。ハンマーを硬くし、音程をわずかにずらして、昔風のバーのような独特の音色を作り出しました。複数の弦を持つ鍵盤では、弦の1本の音程をわずかにずらすことで、独特のコーラス効果を実現しています。

「ミセス・ミルズ」は、ビートルズの多くの楽曲で重要な役割を果たしました。「レディ・マドンナ」、「シーズ・ア・ウーマン」、「アイ・ウォント・トゥ・テル・ユー」、「ペニー・レイン」など、数々の名曲でこのピアノの音色が聴くことができます。「ロッキー・ラックーン」や「ウィズ・ア・リトル・ヘルプ・フロム・マイ・フレンズ」といった楽曲でも、特徴的なサウンドを聞くことができます。

近年では、ジョージ・ハリソンの息子であるダーニ・ハリスンも、アビーロード・スタジオで「ミセス・ミルズ」を使用して楽曲を制作しています。

まとめ

スタインウェイ・バーティグランドは、その耐久性と高品質なサウンドで、1世紀以上にわたって音楽家たちに愛されてきました。特にアビーロード・スタジオの「ミセス・ミルズ」は、音楽史に残る数々の名曲に貢献し、その独特のサウンドは今もなお、多くの音楽愛好家を魅了し続けています。長きにわたる歴史と、数々の名曲に彩られたその存在は、音楽史における重要なピースと言えるでしょう。

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