レディ・マドンナ

レディ・マドンナ：ビートルズのロックンロール・リバイバル

1968年3月、ビートルズは新たなシングル「レディ・マドンナ」を世に送り出しました。　この曲は、レノン＝マッカートニー名義ながら、ポール・マッカートニーが中心となって作曲したロックンロール作品です。B面には、ジョージ・ハリスン作曲のインド音楽風楽曲「ジ・インナー・ライト」が収録されました。

この曲は、それまでのサイケデリア路線とは一線を画す、ストレートなロックンロール・サウンドが特徴です。　約2年間続いたサイケデリックな作風から、よりシンプルな楽曲制作へと回帰した象徴的な作品と言えるでしょう。マッカートニー自身も「完全なロックではないけど、それっぽい曲」と語り、リンゴ・スターも「ロッカスウィング」と表現するなど、バンドメンバーからも新たな方向性への意欲が感じられます。

楽曲の誕生には、興味深いエピソードがいくつかあります。　スコットランドの農場を訪れた際に、マッカートニーは隣人にこの曲をピアノで披露したと言われています。また、楽曲のピアノフレーズは、ジョージ・マーティンがかつてパーロフォンで関わったハンフリー・リッテルトンの「バッド・ペニー・ブルース」を基にしているとの説も存在します。さらに、マッカートニーはファッツ・ドミノを意識した歌唱法を取り入れ、エルヴィス・プレスリーを彷彿とさせるボーカルスタイルで聴く者を魅了します。


歌詞は、ジョン・レノンも一部作詞に携わったと言われています。　過労で疲弊する母親をテーマに、労働者階級の女性像を「マドンナ」に重ね合わせた、温かくも力強いメッセージが込められています。マッカートニーは『ナショナル・ジオグラフィック』誌の写真にインスパイアされたと語り、当初は聖母マリアをイメージしていたものの、後にリヴァプールの労働者階級の女性へとイメージを変化させたと言われています。歌詞には土曜日が抜けているという、ちょっとしたユーモラスな逸話も残されています。

レコーディングは1968年2月3日と6日のわずか2日間で行われました。　インドでの超越瞑想修行を控えていた時期であり、まさに時間との闘いだったと言えるでしょう。ベーシック・トラックは、マッカートニーのピアノとリンゴ・スターのブラシワークによるドラムが中心となっています。ミセズ・ミルズと呼ばれるスタインウェイ・バーティグランドピアノを使用し、複数のテイクを録音して、最終的にテイク3がマスターとして採用されました。

その後、オーバーダビングによってレノンとハリスンのギター、マッカートニーのベース、そしてマッカートニーのリードボーカルが追加されました。　リードボーカルは意図的に過負荷をかけることで、独特の刺々しい響きを実現しています。さらに、マッカートニー、レノン、ハリスンによるバッキングボーカルとハンドクラップ、そして4人のサックス奏者によるブラスセクションが加えられました。このブラスセクションのレコーディングでは、マッカートニーの指示が曖昧だったことから、サックス奏者から不満が漏れる場面もあったようです。

「レディ・マドンナ」のプロモーションビデオも制作されましたが、これは楽曲とは別のレノンの曲「ヘイ・ブルドッグ」のレコーディング風景を編集したものでした。　メンバーの多忙を反映した、ユニークなプロモーションビデオとなっています。

1968年3月15日、イギリスでシングルとしてリリースされた「レディ・マドンナ」は、全英チャートで2週連続1位を獲得する大ヒットを記録しました。　アメリカでもBillboard Hot 100で4位を記録するなど、世界的な成功を収めました。しかし、批評家の評価は様々で、高く評価する声と、やや物足りないという意見が混在していました。

その後も、「レディ・マドンナ」は数々のコンピレーションアルバムに収録され、現在でもマッカートニーのライブで演奏され続けています。　この曲は、ビートルズの音楽史における重要な転換点であり、彼らの音楽的多様性を示す作品として、長く記憶され続けていると言えるでしょう。

更には、ファッツ・ドミノなど、様々なアーティストによるカバーバージョンも存在します。　それぞれのアーティストが独自の解釈で「レディ・マドンナ」を表現しており、この楽曲の持つ普遍的な魅力を示すものと言えるでしょう。

楽曲の制作からリリース、そしてその後の評価まで、「レディ・マドンナ」は多くのエピソードに彩られた、ビートルズの歴史を語る上で欠かせない楽曲です。　彼らの音楽的変遷、母性への敬意、そして時代の空気感を反映したこの作品は、これからも人々に聴かれ、語り継がれていくことでしょう。

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