スタリ・モスト

スタリ・モスト：モスタルの象徴、歴史と再建

スタリ・モスト（Stari Most、「古い橋」の意）は、ボスニア・ヘルツェゴビナのモスタル市を流れるネレトヴァ川に架かる、16世紀に建造された歴史的な橋です。この橋は、モスタルの象徴としてだけでなく、多文化共生の象徴としても知られています。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争で破壊されましたが、後に再建され、ユネスコ世界遺産にも登録されました。ここでは、スタリ・モストの歴史、特徴、そして再建について詳しく解説します。

位置とモスタルの名の由来

スタリ・モストは、モスタル旧市街のネレトヴァ川に架かっており、「モスタル」という都市名もこの橋に由来しています。モスタルは、ボスニア・ヘルツェゴビナ国内で4番目に大きな都市で、ヘルツェゴビナ・ネレトヴァ県の中心都市であり、ヘルツェゴビナ地方の非公式な首都でもあります。

橋の特徴

スタリ・モストは、中央部が湾曲したデザインが特徴的な橋で、全幅4.49メートル、全長約30メートル、川面からの高さは約24メートルあります。橋の両端には、ヘレビヤ塔（北東）とタラ塔（南西）という要塞化された塔が備えられています。これらの塔は「モスタリ（橋の護衛者たち）」と呼ばれ、橋を守る役割を担っていました。橋のアーチは、地元の石であるテネリヤで作られています。アーチの形状は、内側の歪みによって生じた不規則さが特徴的です。橋は、水辺の崖に繋がる石灰岩の橋脚歯によって支えられています。夏場のネレトヴァ川の水面を基準にすると、橋脚歯の高さは6.53メートル、アーチの高さは12.02メートルとなります。

歴史

スタリ・モストの歴史は、16世紀にオスマン帝国によって建造されたことに遡ります。1557年、当時のオスマン帝国のスルタン、スレイマン1世は、それまであった不安定な木製の吊り橋に代わる橋を建設するように命じました。建設は1557年に始まり、9年の歳月をかけて完成しました。橋の碑文によると、1566年7月19日から1567年7月7日の間に完成したとされています。橋の建築家は、ミマール・ハイルッディンという、当時の著名な建築家ミマール・スィナンの弟子でした。伝説によると、彼は前代未聞の橋を建設しなければ死刑になると宣告されていたため、完成後に足場が撤去される日には、自分の葬式の準備をしていたと言われています。しかし、当時の記録が少ないため、橋の建設方法については不明な点も多く、例えば足場をどのように組んだのか、石をどのように運んだのかなどは、未だに謎とされています。当時、この橋は世界で唯一のシングル・スパン・アーチの橋であり、その建築技術の高さから、当時の優れた建築物の一つとされていました。

破壊

ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中の1993年11月9日、スタリ・モストはクロアチア系の民兵組織によって破壊されました。この破壊は、ボスニア人文化、トルコ文化、イスラーム文化に対する攻撃の一環として行われました。1992年には、橋の欄干が砲撃によって損傷しましたが、1993年11月9日には、近隣の丘からの砲撃によって橋全体が完全に破壊され、ネレトヴァ川に崩れ落ちました。橋が、ボシュニャク人勢力下のネレトヴァ川左岸と、クロアチア人勢力下の右岸を結んでいたため、意図的に標的とされたのです。

再建

スタリ・モストは、ユネスコの支援を受けたトルコの企業によって再建されました。再建には、当時の工法に従って切り出された1088個の石が使用され、約1200万ユーロの費用がかけられました。再建された橋は、2004年7月23日に再開通し、記念式典も開催されました。式典は、コミュニティの和解を目的としたものでしたが、ボスニアのコミュニティには依然として対立や疑念が残っています。

橋からの飛び込み

モスタルの若者たちの間では、スタリ・モストからネレトヴァ川に飛び込む伝統があります。しかし、川の水は非常に冷たく、危険な行為であるため、熟練した飛び込み手のみが行います。この伝統は、橋の建設当初から存在していたとされますが、記録に残っているのは1664年以降のことです。1968年からは、毎年夏に公式な飛び込み大会が開催されています。

世界遺産

スタリ・モストは、再建された翌年の2005年に、「モスタル旧市街の古い橋の地区」としてユネスコの世界遺産に登録されました。この登録は、その歴史的価値だけでなく、再建を通じて多民族・多文化の共生と和解の象徴となった点が評価されたものです。世界遺産登録基準のうち、(6)「顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの」という基準を満たしています。

スタリ・モストは、その歴史と再建を通じて、モスタルの人々にとって、単なる橋以上の存在となっています。この橋は、過去の悲劇を乗り越え、未来への希望を象徴する存在として、世界中の人々にその価値を伝え続けています。

参考文献

National Monuments - Muslibegovica House
Rehabilitation Design of the Old Bridge of Mostar
Bosnia and Herzegovina Commission for Preservation of National Monuments - The Stari Most
Before, during and after destruction, pictures taken by Belgian photographer Laurent Van der Stockt - Time magazine
* Live webcams from Stari most and the Old town. (mirror)

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