スタンダード・ヴァンガード

スタンダード・ヴァンガード：戦後英国を駆け抜けた名車

1947年から1963年にかけて、スタンダード・モーター・カンパニーによって製造されたスタンダード・ヴァンガードは、戦後英国の自動車産業を代表するモデルの一つです。第二次世界大戦後の新型車として登場したヴァンガードは、従来モデルとは全く異なる斬新なデザインと、堅牢な性能で高い評価を獲得しました。本稿では、その歴史と各モデルの特徴を詳しく解説します。

開発とネーミングの経緯

1947年7月の発表当時、ヴァンガードは戦後の英国市場にあって全く新しいモデルでした。新型車には、グリフィンの翼を図案化した新しいスタンダードのバッジが初めて採用されました。興味深いことに、車名の『ヴァンガード』は、1944年に就役した英海軍最後の戦艦HMSヴァンガードに由来します。このネーミングには、戦時中や戦後に海軍に携わった人々への強い訴求力があり、スタンダード社は英海軍幹部との交渉を経て、この名称の使用許可を得ました。

デザインとスタイル

ヴァンガードのデザインは、戦前のアメリカ車、特にプリムス車の影響を受けており、特徴的な傾斜したリア（ビートル・バック）が印象的です。一方で、ソビエト連邦のGAZ-M20ポベーダとの類似性を指摘する声もありましたが、両車はクラスやデザイン面で類似性はあるものの、ポベーダが先にセミモノコック構造を採用していたなど、技術面では差異があります。

メカニズム

ヴァンガードは、OHV直列4気筒エンジンを搭載。ボアφ85mm×ストローク92mm、圧縮比は初期モデルが6.7:1、後に7.0:1、スポーツマンモデルでは8.0:1にまで高められました。このエンジンは、スタンダード社がファーガソン・トラクター向けに製造していたエンジンをベースにしており、信頼性と量産性に優れていました。トランスミッションは、当初3速シンクロメッシュ式でした。

ヴァンガード フェーズ1

初期モデルであるフェーズ1は、従来型のシャーシに半流線型の4ドアボディを組み合わせた構造です。サスペンションは前輪が独立懸架、後輪がリジッドアクスルでした。ブレーキは全輪油圧式ドラムブレーキです。戦後の英国における輸出重視の政策を受け、初期の2年間は全生産車が輸出向けに回されました。イギリス国内での販売は1950年から開始されました。1950年にはエステートモデルが追加され、ベルギーではコンバーチブルモデルも生産されました。1951年にはオーバードライブがオプションとして追加され、1952年にはマイナーチェンジを受け、ボンネットの低さや拡大された後部窓などが特徴となりました。

ヴァンガード フェーズ2

1953年、ジュネーヴ・モーターショーで発表されたフェーズ2は、スリーボックス型のノッチバックデザインを採用。トランクルーム容量が50％拡大され、視認性も改善されました。機械的な変更は少ないものの、クラッチ操作がケーブル式から油圧式に変更され、エンジン圧縮比が向上しました。また、1954年には、ディーゼルエンジン搭載モデルが英国で初めて発売されました。このディーゼルエンジンは、ファーガソン・トラクター用のエンジンをベースにしており、経済性に優れた一方で、冷間時の始動操作に難がありました。

ヴァンガード フェーズ3、スポーツマン、エンサイン

フェーズ3は、独立式シャーシを廃止するなど大幅な変更が加えられたフルモデルチェンジと言えるモデルです。エンジンは旧型を改良した2088cc、68hpのOHV直列4気筒エンジンを搭載。サスペンションは前輪が独立懸架、後輪はリジッドアクスルを継承しました。ブレーキはロッキード製ドラムブレーキを採用。4速MTが搭載され、オーバードライブがオプション設定されました。ボディは低く、ガラス面積が増加し、より現代的なスタイルになりました。また、ヒーターが標準装備となりました。高性能モデルの『スポーツマン』は、トライアンフTR3のエンジンを搭載し、90hpの高出力を実現しました。1957年には、ベースモデルである『エンサイン』が登場しました。エンサインは1670ccエンジンを搭載し、多くが英空軍によって購入されました。

ヴァンガード ヴィニャーレ

1958年、フェーズ3はミケロッティとヴィニャーレによるデザイン変更を受けました。フロントとリアの窓が拡大され、サイドウインドウにはステンレス製の枠が取り付けられました。グリルとテールライトも変更され、より洗練されたスタイルとなりました。4速MTがオプション設定されました。

ヴァンガード シックス

1960年末に登場したヴァンガードシックスは、1998cc直列6気筒エンジンを搭載した最終モデルです。このエンジンは、後にトライアンフ2000にも搭載されました。外観上の変更はバッジのみでしたが、内装は改良されました。

終焉

1963年、エンサインとヴァンガードは、トライアンフ2000に置き換えられ、スタンダードブランドは英国市場から姿を消しました。オーストラリアでは、1964年までユーティリティモデルの生産が継続されました。また、ディンキーやコーギーなどのメーカーからもミニカーが発売されました。

もう一度検索