スタンリイ・G・ワインボウム

スタンリイ・グローマン・ワインボウム

1902年4月4日に生まれ、わずか33歳でこの世を去ったスタンリイ・グローマン・ワインボウムは、アメリカSF文学史において、活動期間の短さとは裏腹に極めて大きな足跡を残した作家です。彼の代表作であり、SFデビュー作でもある短編「火星のオデッセイ」（1934年発表）は発表当時から熱狂的な称賛をもって迎えられ、今なお不朽の名作として読み継がれています。しかし、この傑作を発表してからわずか1年半足らずという短い期間で、彼は肺がんのため急逝しました。

ケンタッキー州ルイビルで生を受けたワインボウムは、ミルウォーキーで教育を受けました。高等教育はマディソンにあるウィスコンシン大学で受け、当初は化学工学を専攻しましたが、後に英文学へ転科しています。一般に卒業したと思われがちですが、実際には大学を卒業していません。伝えられるところによれば、友人の替え玉として試験を受けたことが発覚し、それが原因で1923年に大学を去ることになったと言われています。

彼の作品で最も広く知られているのは、SF界に新風を吹き込んだ記念碑的な短編「火星のオデッセイ」でしょう。この物語で描かれる異星人トウィールは、人間とは全く異なる思考や生態を持ちながらも、主人公に対して友好的な態度を示す存在として描かれ、当時のSFにおける異星人像を覆しました。この作品以前にも、彼は1933年に恋愛小説「淑女の舞踏会」を執筆し、新聞連載されていますが、「火星のオデッセイ」が彼のSF作家としてのキャリアの幕開けとなりました。

著名なSF作家アイザック・アシモフは、「火星のオデッセイ」を高く評価し、「完璧なキャンベル型SF小説」と称しました。これは、後のSF界に大きな影響を与えた編集者ジョン・W・キャンベルが登場する以前の作品でありながら、キャンベルが提唱した「人間と同等かそれ以上に賢明でありながら、人間とは似ても似つかない生物を描写せよ」という理念を見事に体現していたからです。アシモフは、この作品がその後のSFの書き方を根本的に変革した三つの作品の一つであると繰り返し述べています。さらに、「火星のオデッセイ」は、『SFの殿堂 第1巻 1929-1964』に収録された作品の中で、アメリカSFファンタジー作家協会によって最も多くの票を獲得した短編小説として、その歴史的価値が改めて認められています。

ワインボウムの生前に発表された作品の多くは、『アスタウンディング』誌や『ワンダー・ストーリーズ』誌といった主要なSF雑誌に掲載されました。しかし、初期には『ファンタジー・マガジン』（後に『サイエンス・フィクション・ダイジェスト』と改称）のような同人誌にも寄稿しています。彼はまた、作家たちがリレー形式で執筆した『ザ・チャレンジ・フロム・ビヨンド』（『ファンタジー・マガジン』1935年9月号掲載）にも参加しており、その冒頭部分を担当しました。

彼の死の直前、ワインボウムは長編小説「踊りし三人」を執筆中でした。この小説は、英国皇太子がアメリカの地方にあるダンス会場を突然訪れ、異なる背景を持つ三人の地元女性と踊ることで、彼女たちの人生が予期せぬ方向へと向かっていくという物語です。彼の未亡人マーガレット・ホートフ・ワインボウム・ケイは、1993年にペンシルベニア州フィラデルフィアにあるテンプル大学図書館へ夫の遺稿を含む資料を寄贈しました。これには未出版だった「踊りし三人」の原稿も含まれており、遺稿のほとんどが恋愛小説でしたが、非SFの作品もいくつか見つかっています。

ワインボウムの作品は、没後も様々な形で展開されました。特に短編「極限適応」は、1957年に「She Devil」というタイトルで映画化されたほか、1949年にはテレビドラマ化（『スタジオ・ワン』で「Kyra Zelas」として放送）、1950年代にはラジオドラマとしても放送されています。

彼の功績は、火星のクレーターにその名が冠されていることや、2008年7月18日にコードウェイナー・スミス再発見賞を受賞したことからも伺えます。

主要な作品世界

ワインボウムは、いくつかの魅力的な作品シリーズを生み出しました。特に有名なのが、独自の太陽系世界を舞台にした「惑星シリーズ」と、奇妙な発明を巡る「ファン・マンダプーツ・シリーズ」です。

惑星シリーズ

彼は生前に9作の「惑星シリーズ」短編を発表し、10作目も執筆途中で妹のヘレン・ワインボウムが完成させました。これらの作品はすべて、当時の最新科学（衝突仮説など）に基づき、巨大ガス惑星が熱を放出し、その衛星（イオ、タイタン、天王星など）に地球のような環境が存在するという、一貫した太陽系像を描いています。火星もまた、希薄な大気ながらも補助装置なしで歩行可能とされるなど、地球的な要素を持っています。このシリーズでは、異なる惑星を舞台にした物語でありながら、特定の異星人種族（例：「火星のオデッセイ」の鳥型異星人や、「寄生惑星」の金星の三つ目生物）が他の作品にも言及されるなど、世界観の繋がりが示されています。

ファン・マンダプーツ・シリーズ

このシリーズは、「もしもの世界」「理想」「観点」の三つの短編から構成され、常に遊び人のディクソン・ウェルズを語り手としています。物語の中心となるのは、「新物理学」の教授であり、自らをアインシュタインをも凌ぐと自負する傲慢な天才、ハスケル・ファン・マンダプーツ教授です。教授は、様々な奇妙な発明品を生み出します。「もしもの世界」では、あり得たかもしれない別の現実を見せる装置、「理想」では、人それぞれが心に描く理想の姿を映し出す装置、「観点」では、他人の視点から世界を見ることを可能にする装置が登場します。これらの発明に翻弄されながら、ディクソンは常に理想の女性を追い求めますが、結局はその手から零れ落ちてしまうという皮肉な結末を迎えるのがこのシリーズの特徴です。

スタンリイ・G・ワインボウムの短い文学キャリアは、SFというジャンルに新たな想像力と洗練をもたらしました。彼の創造した異星人や世界観は、後続の多くの作家に影響を与え続け、彼の名前はSF史において特別な輝きを放っています。

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