スターストリーク (ミサイル)

スターストリークHVM

スターストリークHVM（Starstreak High Velocity Missile）は、イギリスによって開発された近距離防空ミサイルシステムです。このシステムは、既存の対空兵器が抱えていた課題を克服し、特に新しい高速・高機動性の航空脅威に対応するために設計されました。

開発の背景

1970年代当時、イギリス陸軍が短距離防空に使用していた主力システムは、牽引式のレイピアミサイルシステムでした。これは設置に時間がかかり、前線の部隊が迅速に移動しながら使用するには限界がありました。また、敵機の高い敏捷性に対応する上でも課題が見られました。一方、歩兵部隊が携行して運用するジャベリンミサイルは、その性能において不十分な面がありました。

同時期、ソ連の地上部隊では、9M14マリュートカ（NATOコード：AT-3サガー）対戦車ミサイルを搭載したMi-24ハインド攻撃ヘリコプターのような、地上部隊にとって大きな脅威となる新しいタイプの航空機が配備されつつありました。これらの強力な武装を持つ低空侵入機に対抗するため、イギリス陸軍は既存システムよりも高い性能を持ち、より機動的に運用できる新世代の近距離防空ミサイルシステムの開発を強く求めることになりました。

開発経緯

こうした状況を踏まえ、1984年にイギリス参謀本部は、射程6キロメートル以上、終末速度マッハ4という高い目標性能を持つ「高速ミサイル（HVM）」構想をまとめ、GSR 3979という要求仕様を提示しました。この要求に対し、ショーツ・ミサイル・システムズ（SMS）社とブリティッシュ・エアロスペース社が提案を行いました。最終的に、ショーツ社がS14として開発を進めていた案が、スターストリークとして正式に採用されることになりました。

ショーツ社は、S14で培った技術を応用し、ジャベリンMANPADSを改良したスターバーストも開発しました。スターバーストは比較的スムーズに開発が進み、1989年から部隊への配備が開始されました。しかし、スターストリークは超高速性能や他に例を見ないユニークな弾頭構造を採用していたため、開発には予期せぬ困難が伴い、結果としてイギリス陸軍への配備が開始されたのは、スターバーストよりも大幅に遅れた1997年となりました。

技術的特徴

スターストリークHVMは、イギリス軍が慣れ親しんだSACLOS（半自動指令照準線一致誘導）方式を採用しています。しかし、従来のシステムが指令に無線波を利用していたのに対し、スターストリークはレーザービームを使用する点が大きな特徴です。

スターストリークの最も革新的な部分は、その弾頭構造にあります。一般的な単一の炸薬弾頭ではなく、「ダーツ」と呼ばれる3本の小型子弾をミサイル先端部に搭載しています。これらはミサイル発射前は先端に収められています。

発射されると、まず1段目の固体燃料ロケット・モーターが燃焼し、ミサイルを初期加速させます。このブースターは燃焼後に切り離されます。続いて2段目のTITUSブースターが点火し、ミサイル本体をマッハ3.5という極めて高い超音速まで一気に加速させます。TITUSブースターの燃焼が終了すると同時に、内部に収められていた3本のダーツがミサイル先端から放出されます。放出されたダーツは、TITUSブースターによって与えられた高い慣性力によって目標へ向かって飛翔します。それぞれのダーツは長さ396mm、直径22mm、重量900グラムです。

ダーツはタングステン合金製の丈夫な弾体を持っており、その超高速による運動エネルギーによって目標の装甲を貫通・破壊する効果が期待できます。さらに、各ダーツには450グラムの高性能炸薬弾頭も内蔵されており、命中時の破壊力を高めています。この運動エネルギーと炸薬の複合効果による破壊力は、強力なボフォース40mm機関砲弾に匹敵するとされており、ヘリコプターのようなソフトターゲットだけでなく、軽装甲車両に対しても有効な攻撃能力を持つとされています。

運用プラットフォーム

スターストリークHVMは、様々なプラットフォームから運用できるように設計されています。

可搬式発射機（LML：Lightweight Multiple Launcher）: 3連装の発射機で、比較的軽量に設計されており、車両などへの搭載に適しています。柔軟な陣地展開を可能にします。
自走式発射機（SP HVM）: アルビス・ストーマー装甲車の車体にスターストリークの発射システムを統合した車両です。装甲化された車体と高い機動力により、前線部隊に随伴して防空能力を提供できます。
* 携行式発射機: 2000年から部隊配備が開始された、一人または二人で携行・操作が可能なMANPADS（Man-Portable Air-Defense System）形態です。これは歩兵部隊の近距離防空能力を大幅に向上させました。

これらの地上型に加え、スターストリークのミサイル本体は、航空機から発射する空対空型（ATASK：Air To Air Starstreak）や、艦船に搭載する艦対空型（Seastreak）としても開発されました。ATASKはアメリカ軍でもその導入が検討されましたが、最終的に制式採用・配備には至りませんでした。

改良型

2007年半ばには、性能向上型のスターストリーク-IIが発表されました。この改良型では、ミサイルの射程と射高が延伸されたほか、誘導装置にも改良が加えられています。スターストリーク-IIは2010年代後半に運用が開始される予定でした。

スターストリークHVMは、その独自の超高速性能と多子弾弾頭技術により、現代の多様な航空脅威に対して高い有効性を示す防空システムとして、現在も運用されています。

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