スチンダー・クラープラユーン

スチンダー・クラープラユーン（タイ語: สุจินดา คราประยูร、英語: Suchinda Kraprayoon、1933年8月6日 - ）は、タイの軍人であり、政治家です。彼は、1991年の軍事クーデターで権力を掌握した国家平和維持評議会の実質的な指導者であり、1992年にはタイ王国の首相を務めましたが、その在任期間は短く、国内の民主化運動の高まりの中で辞任に追い込まれました。

生い立ちと軍歴

スチンダーは、タイ中部のナコーンパトム県で生まれました。当初、チュラーロンコーン大学で医学を学んでいましたが、後に退学し、チュラチョームクラオ陸軍士官学校に進みました。さらに、アメリカ合衆国に留学し、アメリカ軍の幕僚養成大学でも学んでいます。これらの教育歴は、彼の後の軍人としてのキャリアに大きな影響を与えました。

1953年にタイに帰国後、スチンダーはタイ王国陸軍に入隊し、中尉として勤務を開始しました。その後、順調に昇進を重ね、1958年1月25日には砲兵部隊の部隊長に任命されました。彼の軍人としてのキャリアは、1990年4月にタイ王国陸軍司令官に、1991年10月にはタイ王国軍最高司令官に任命されるという形で頂点を迎えました。彼の昇進は、彼が軍内部で高い評価を受けていたことを示しています。

クーデターと首相就任

1991年2月23日、スチンダーは軍事クーデターを主導し、権力を掌握しました。このクーデターによって設立された国家平和維持評議会において、スチンダーは副議長として実質的な指導者となり、タイの政治を支配しました。評議会は、外交官のアナン・パンヤーラチュンを首相に任命し、一時的な安定を図りました。

しかし、1992年3月22日に行われた総選挙後、5つの政党がスチンダーを首相に指名したことで、国民の間には不満が高まりました。1992年4月7日にスチンダーが首相に就任すると、民主化を求める市民の反発は頂点に達しました。この結果、5月17日にバンコクで、軍隊と市民との衝突である「暗黒の5月事件」が発生し、多数の死傷者を出す悲劇となりました。この事件は、スチンダー政権に対する国民の不信感を決定的なものとしました。

辞任とその後

事態を重く見たラーマ9世国王は、軍事政権側と民主化運動の指導者であるチャムロン・シームアンとの調停に乗り出しました。国王の介入により、スチンダーは1992年5月24日に首相を辞任しました。副首相を務めていたミーチャイ・ルチュパンが一時的に首相となり、その後、アナン・パンヤーラチュンが再び首相に就任しました。この一連の出来事は、軍部が政治に介入することに対する国民の強い反発を示すものであり、タイの政治史において重要な転換点となりました。

スチンダーの辞任後、タイ軍部の政治への影響力は徐々に低下していきました。彼はその後、テレコム・ホールディングス社の社長に就任し、ビジネスの世界で活動しました。

スチンダー・クラープラユーンの政治家としてのキャリアは、タイの民主主義発展における重要な教訓を提供しています。彼のクーデターと首相就任は、タイの政治的安定を脅かすものであり、民主主義への道のりの複雑さを示しています。

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