ステイゴールド (競走馬)

黄金の旅路、ステイゴールド

1994年3月24日に北海道で生を受けたステイゴールドは、日本競馬史にその名を深く刻んだ一頭の競走馬、そして偉大な種牡馬である。父は当代きっての日本競馬の父サンデーサイレンス、母ゴールデンサッシュという良血馬であったが、その競走生活は順風満帆とは程遠いものだった。デビュー戦こそ3着に入ったものの、骨膜炎や逸走による競走中止など、キャリアの序盤は苦難の連続。迎えたデビュー6戦目でようやく初勝利を挙げ、その後条件戦を連勝して重賞戦線へと駒を進めるが、ここからステイゴールドの真骨頂ともいえる「惜敗ロード」が始まる。

1997年10月の京都新聞杯以降、2000年の目黒記念で重賞初制覇を果たすまでの約2年8ヶ月、彼は28連敗という長いトンネルをさまようことになる。しかし、その連敗の中身は特異だった。10度にわたる2着、うちGIでの2着が4回。出走29戦中22回も掲示板（5着以内）に載るという安定した上位入着を続けながら、あと一歩で勝利に届かないレースぶりは、ファンに「稀代のシルバー＆ブロンズコレクター」という愛称で親しまれるようになった。

多くのドラマを生んだ競走馬としてのハイライトは、キャリアの晩年に訪れる。2001年、7歳となったステイゴールドはドバイシーマクラシック（当時GII）に出走。低評価を覆し、世界の強豪相手に写真判定の末優勝。日本産の日本調教馬として初の国外重賞制覇という快挙を成し遂げた。そして、通算50戦目、引退レースとして選ばれた香港ヴァーズ（GI）では、劇的な追い込みで念願の国際GIタイトルを獲得。まさに「絵に描いたような大団円」と称えられ、JRA賞特別賞を受賞するなど、その有終の美は多くの人々に感動を与えた。

競走馬としてのステイゴールドは、体格は小柄ながら非常に頑健で、50戦を走り抜いたタフネスさは特筆される。また、強い気性を持ち、調教やレース中に立ち上がったり、斜行したりといった悪癖も見せた。特に左への斜行癖は陣営を悩ませ、矯正のために様々な工夫が凝らされた。それでも、乗り手やスタッフは彼の賢さと、一度理解すれば応えてくれる従順さを感じていたという。武豊騎手は、最後まで掴みどころのない難しさがありつつも、特別な存在であったと語った。関係者からは「無事是名馬」を体現した存在、「引退の話を出すスキを決して見せなかった」と称えられた頑丈さも持ち合わせていた。

引退後、ステイゴールドは種牡馬としての新たな道を歩み始める。当初は日高軽種馬農業協同組合への売却話もあったが不成立に終わり、社台グループなどを中心としたシンジケートが組まれた。現役最後の香港ヴァーズ勝利後、彼の種牡馬人気は爆発的に高まり、初年度から多くの繁殖牝馬を集めた。産駒は父同様に小柄な馬が多い傾向があるが、その父譲りの優れた瞬発力と粘り強さを伝えた。特に母の父メジロマックイーンとの配合は「黄金配合」と呼ばれ、オルフェーヴル（三冠馬、凱旋門賞2着2回）、ゴールドシップ（GI6勝、宝塚記念・有馬記念連覇）、ドリームジャーニー（GI3勝、宝塚記念・有馬記念連覇）といった歴史的名馬を次々と輩出。他にも多くのGI・重賞勝ち馬を送り出し、サイアーランキングで上位の常連となった。産駒の多くは芝の中長距離で活躍する傾向が見られ、特に母父メジロマックイーンとの配合では、互いの馬体や気性を補完し合う関係性が指摘されている。

種牡馬としても成功を収めていたステイゴールドだったが、2015年2月5日、繋養先で種付け後に体調を崩し、大動脈破裂のため21歳でこの世を去った。その死は多くの競馬ファンや関係者に惜しまれたが、彼が残した血は今も競馬界で輝き続けている。ラストクロップとなる産駒は2018年にデビュー。また、父サンデーサイレンスに並ぶ17年連続重賞制覇記録も達成した。生涯の最後までドラマチックであり続けたステイゴールドは、まさに人智を超えた「黄金の旅路」を駆け抜けた馬として、語り継がれていく。

主な勝ち鞍（グレード制重賞）

2000年 [目黒記念]
[2001年]] [[日経新春杯]
[2001年]] [[ドバイシーマクラシック]
2001年 香港ヴァーズ(GI)

主なGI優勝産駒

ドリームジャーニー（朝日杯FS、宝塚記念、有馬記念など）
ナカヤマフェスタ（宝塚記念など、凱旋門賞2着）
オルフェーヴル（三冠、有馬記念、宝塚記念など、凱旋門賞2着2回）
ゴールドシップ（皐月賞、菊花賞、有馬記念、宝塚記念、天皇賞春など）
フェノーメノ（天皇賞春連覇など）
レッドリヴェール（阪神JFなど）
オジュウチョウサン（中山GJ、中山大障害など障害GI9勝）
アドマイヤリード（ヴィクトリアマイル）
レインボーライン（天皇賞春など）
ウインブライト（クイーンエリザベス2世C、香港Cなど）
* インディチャンプ（安田記念、マイルCSなど）

これらの輝かしい実績により、ステイゴールドはGI未勝利に終わる可能性もあった競走馬時代から、世界的な種牡馬へと変貌を遂げた。

（注：ドバイシーマクラシックは2002年からGIに昇格。）

もう一度検索