ステシコロス

ステシコロス：古代ギリシアの抒情詩人

ステシコロス（紀元前7世紀～紀元前6世紀）は、古代ギリシアを代表する抒情詩人の一人です。シケリア島のヒメラで生まれ、「コロスを組織した者」を意味するその名は、彼が残した偉業を端的に示しています。

ヘレニズム期の学者たちは、ステシコロスをアルクマン、サッポー、アルカイオスらと共に「9歌唱詩人」の一人に数えました。彼らの作品は多くが失われていますが、断片や後世の作家による引用、そして作品への言及を通して、ステシコロスの作品は現代にまでその名を残しています。

生涯と作品

ステシコロスの生涯については、断片的な情報しか残されていません。『スーダ辞典』によると、出身地はヒメラの他に南イタリアのマタウロスという説もあり、生没年も諸説あります。兄弟には幾何学者のマメルティノスと立法家のヘリアナクスがいたと伝えられています。彼の作品は全26巻に及んだと推測されていますが、現存するのは断片のみです。

彼の作品は主に叙事詩的なテーマを扱っており、トロイア戦争を描いた叙事詩や、ヘラクレスの冒険、特にゲリュオン退治の物語などが知られています。ヘラクレスがゲリュオンの赤い牛を奪うという、十二の功業の一つを描写した断片も残されています。

パリノードとヘレネ

ステシコロスは、ヘレネとトロイア戦争に関する従来の物語を否定する詩作をしたと伝えられています。しかし、その直後、彼は失明してしまいます。そして、ヘレネへの批判を撤回する「パリノード」（改詠詩）を作ったところ、奇跡的に視力を回復したという伝説が残されています。

このパリノードの中で、ステシコロスは「真のヘレネはエジプトに留まり、トロイアに現れたのはゼウスが作り出した幻影だった」という革新的な解釈を提示したとされています。プラトンの『パイドロス』には、このパリノードの冒頭の一節が引用されており、「その話は真実にあらず/汝ヘレネはよく漕ぎ進む船には乗らず/汝トロイアの町にも行かず」と記されています。このエピソードは、ステシコロスの創造性と、その詩が古代ギリシア社会に与えた衝撃を示すものと言えます。

ホメロスとの関係と恋愛詩

ステシコロスの作品は、ホメロスの叙事詩と密接な関係にあるとされています。彼は叙事詩的な主題を好んだものの、ホメロスとは異なり、恋愛詩においても高い評価を得ていました。アテナイオスは、ステシコロスの恋愛歌が有名であり、特に少年愛（パイデイア、パイディカ）を歌った作品が多く存在したと記しています。

ステシコロスの遺産

ステシコロスの作品は断片的ではありますが、古代ギリシアの詩歌、特に叙事詩と恋愛詩の伝統に大きな影響を与えました。彼の革新的な解釈と洗練された詩作は、後世の詩人たちに多大な影響を与え、現代においても古代ギリシア文化を理解する上で重要な役割を果たしています。彼の作品は、古代ギリシアの社会観、倫理観、そして芸術性を理解するための貴重な資料となっています。彼の作品から読み取れる古代ギリシア社会の複雑さと深遠さを理解することは、現代社会の私たちにとっても、大きな意義を持つと言えるでしょう。

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