スナガニ科

スナガニとその近縁種：海岸に生きる多様なカニたち

スナガニ科（Ocypodidae）は、かつては海岸に生息する多くのカニを含む分類群でしたが、近年、分類が見直され、現在はスナガニ属とシオマネキ属のみを含むとされています。しかし、ここでは、かつてスナガニ科に含まれていたコメツキガニ、チゴガニ、オサガニも合わせて解説します。これらのカニは、スナガニ上科としてまとめられ、共通の生態や特徴を多く持っています。

概要

これらのカニは、甲幅が1cmから数cm程度の小型から中型のグループです。複眼が大きく発達しているか、または長い眼柄を持つものが多く、特にシオマネキは特徴的な長い眼柄を持っています。甲羅は比較的薄いものの、鋏脚は丈夫で、歩脚も発達しており、陸上をすばやく移動するのに適応しています。

これらのカニは、熱帯地域を中心に、砂浜や干潟、マングローブの地面に巣穴を掘って生息しています。生息場所は種類によって異なり、小石が多い粗い砂浜を好むものもいれば、細かい泥質の干潟を好むものもいます。潮間帯に生息する種が多く、満潮時には巣穴に隠れ、干潮時に地上に出て活動します。

活動時間帯は潮汐に大きく影響されており、干潮時には餌を探したり、オスが求愛行動であるウェービングを行ったりします。ウェービングは、オスが大きな鋏脚を振り上げてアピールする行動で、シオマネキ類でよく見られます。交尾はオスの巣穴の中で行われる場合と、巣穴の外で行われる場合があります。また、巣穴がメスの卵の保護場所として提供されることもあります。

これらのカニは雑食性で、砂粒に付着したプランクトンやデトリタスを食べています。食事の際には、砂や泥の塊を鋏脚で掴んで口に運び、口の中で餌を濾し取り、不要な砂粒を吐き捨てるという行動を繰り返します。コメツキガニが生息する場所では、この行動によって砂団子が放射状に残されます。

主な天敵は、シギ、チドリ、サギなどの水鳥や、コチ、クロダイなどの魚類です。これらの天敵から身を守るため、カニたちは動きに敏感で、危険を感じると素早く巣穴に逃げ込んだり、砂の中に潜り込んだりします。発達した複眼と脚は、これらの敵から身を守るために役立っています。

分類

以下に、スナガニ上科に分類される主な科と属を紹介します。

スナガニ科 Ocypodidae
スナガニ属 Ocypode：スナガニ、ミナミスナガニ、ツノメガニなどが含まれます。砂浜の潮上帯に巣穴を掘って生息し、複眼が大きく発達しており、視力が良いのが特徴です。走るのも非常に速いです。
シオマネキ類（旧Uca属）：シオマネキ、ハクセンシオマネキ、ヒメシオマネキなどが含まれます。オスの鋏脚が片方だけ非常に大きくなることが特徴で、ウェービングやオス同士の争いに使われます。長い眼柄の先に複眼がついているのも特徴的です。満潮線付近に巣穴を掘り、種類によって好む粒度が異なります。
コメツキガニ科 Dotillidae
コメツキガニ属 Scopimera：コメツキガニが属します。小型のカニで、潮間帯の砂地に集団で生息します。巣穴の周りに小さな砂団子をたくさん残すのが特徴です。
チゴガニ属 Ilyoplax：チゴガニ、ハラグクレチゴガニなどが属します。甲羅が五角形の小型のカニで、干潟の潮間帯に生息します。オスの鋏脚は白く、ウェービングがよく見られます。
ツノメチゴガニ属 Tmethypocoelis：ツノメチゴガニが属します。複眼の上に小さな突起がある以外はチゴガニに似ています。
オサガニ科 Macrophthalmidae
オサガニ属 Macrophthalmus：オサガニ、ヤマトオサガニなどが属します。長い眼柄と横長の甲羅を持ちます。オスの鋏脚は長く、鋏部分が下を向いています。
ムツハアリアケガニ科 Camptandriidae
ムツハアリアケガニ属 Camptandrium：ムツハアリアケガニが属します。甲羅は六角形で凹凸があり、歩脚に細かい毛が生えています。干潟に穴を掘って生息します。
アリアケガニ属 Cleistostoma：アリアケガニが属します。歩脚が平たく、全身に細かい毛が生えており、ほとんど泥まみれで生活しています。干潟に穴を掘って生息します。
アリアケモドキ属 Deiratonotus：カワスナガニ、アリアケモドキなどが属します。小型のカニで、河口域の砂泥地に生息します。
コウナガカワスナガニ属 Moguai：コウナガカワスナガニ、ヨウナシカワスナガニなどが属します。甲羅がやや縦長で、幅約5mm、長さ7mm弱の小さなカニです。歩脚に細かい毛が生えており、河口域の砂泥地に生息します。東～東南アジアに3種が知られ、うち2種が奄美大島以南に分布します。

これらのカニたちは、それぞれが独自の生態を持ち、多様な環境に適応して生きています。海岸の生態系を理解する上で、非常に重要な存在と言えるでしょう。

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